非思量

聖飢魔II「メフィストフェレスの肖像」(1996)

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このたびの再集結に合わせ、聖飢魔IIがBMGに残したアルバムが昨年8月にリマスターの上、再発されている。個人的には「90年代以降に出た音源の音質がリマスターで劇的に向上することはない」という認識でいるので長らくほったらかしてあったのだが、通算8枚目にあたる「メフィストフェレスの肖像」については、劣悪と評価されがちな音質が今回のリマスターで随分良くなったとアマゾンでレビューされていたので、ならばと思い購入することに。

結論から言うと、そんなに変わってない。ベースやバスドラの輪郭がクッキリしたかな、とは思うけど、言われなければわからないだろう。「愛車に標準装備のカーステが一番マトモ」という悲惨なオーディオ環境で不満が出ない程度の耳の持ち主による論評、という注釈付きではあるが。というか、そもそも論としてこのアルバムの音質が悪いと思ったことがない。そりゃ次作「News」(1997)や最終作「Living Legend」(1999)は恐ろしく強靭なサウンドを得ているが、ダミアン浜田やジェイル大橋といった元メンバーの楽曲が採り上げられ、1st「悪魔が来たりてヘヴィメタる」(1985)から4th「Big Time Changes」(1987)、あるいはその後のシングル「Stainless Night」(1988)までの作風に立ち返った、湿り気のあるクラシカルなハード・ロック~ヘヴィ・メタルである今作にはむしろこの音が合っているとすら思っている次第でして。確かに「良い」とも思わないけど。

肝心の楽曲は非常に充実している。この作品の方向性を見事すぎるほどに示唆しているオープナー“地獄の皇太子は二度死ぬ”やダミアンワールド全開の“凍てついた街”“メフィストフェレスの肖像”、聖飢魔IIでは珍しい地味目ミッド・バラード“サロメは還って殺意をしるし”、ヒリヒリした疾走感が印象的な“Holy Blood”等々、佳曲揃い。当時の聖飢魔IIを取り巻く状況があまりにも悪かったことや、彼らにしては珍しく過去の焼き直し臭が漂う作風のせいか、メンバー間での評価は必ずしも高いとは言えないようだが、当時聖飢魔IIの名前を出すことがタブーに近かった某ワールドヘビーエストヘビーメタルマガジンの記者が同誌コラム欄で採り上げてポジティヴな評価を与えており、私もこの作品は随分と聴き込んだ。名作だと思いますけどね。リアルタイムでは時代にマッチしているとは言い難かった、端正な良質さを備えたオーソドックスな音楽性は、時を経て多様性が極まった今こそ輝く。ときたまテレビで歌うデーモン閣下を見て「この悪魔、歌上手いじゃないか!」と驚いた若人の皆様、これを機に聖飢魔IIを一枚、いかがでしょうか。

amazarashi「世界収束二一一六」(2016)

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3rdフル。彼らのことを知ってからもう結構経つのだがアルバムを購入したのは初めてである。

先日観たライヴ、この新作に収録されている曲のうち半分ぐらいは演奏されただろうか。この時点で新作は発売されておらず、初見がライヴだったからか、はじめはスピーカーから流れてくるサウンドがやけにこぢんまりとしているように感じられた。それに引きずられて楽曲も地味かなあ、と思ってしまった…いや、実際ちょっと地味かも知れないけど、聴き込むごとに引き込まれていくスルメアルバムに仕上がっている。

現代を象徴するキーワードをちりばめた“タクシードライバー”と、逆に時代に拘束されない普遍的な閉塞感を描いた“多数決”の冒頭2曲がとても良い。字余りを恐れぬ奔放なようでいてよく考えられた歌詞もネガティヴ一辺倒というワケではなく、“ライフイズビューティフル”のような、古い仲間との楽しい一夜を描いた曲もあって、シリアスだしどこか刹那的ではあるが極端な息苦しさが始終漂っているワケではない。

何かと歌詞の方に目が向きがちだが、ドラマチックかつ多彩な楽曲及びアレンジのオッサンホイホイぶりもなかなかのもので、青臭さや気恥ずかしさを感じることなく聴ける。“花は誰かの死体に咲く”の間奏でのベースラインや、ラスト近くのサビでバックに流れるピアノのフレーズが好きだ。衝動性を重んじているようでその実とてもウェルメイドな佳作。


amazarashi“多数決”

Masayoshi Fujita「Apologue」(2015)

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ベルリン在住の日本人ビブラフォン奏者、Masayoshi Fujita(藤田正嘉)のソロ2nd。2月に観たライヴの会場で購入した物件。

ライヴのレポでも書いた通り、ニュー・エイジ/アンビエント系の、非常にリラックスできる音。ライヴでは演奏前に朗読されていた各楽曲のテーマがブックレットに収録されている。ライヴでは完全にソロによる演奏だったが、アルバムではヴァイオリン、チェロ、クラリネット、フルート、フレンチ・ホルン、スネア・ドラムといったゲスト奏者を迎えてより豊饒なサウンドを志向している。

ビブラフォンの柔らかい音色が時に穏やかで、またある時には幻想的な空気を作り出す。のほほんと和む音ではなく、曲によってはひんやりとしたクラシカルなチェンバー・ロック的な表情を見せることもあり、ソッチ方面が好きな人にもアピールする音楽だと思う。こういう、BGMとして優秀でありながら、じっくりと向き合うように耳を傾けても退屈しない作品が好きだ。とても良い。3月末から4月初旬にかけて関西でライヴの追加日程が発表されている(コチラ)ので、興味のある方はチェックしてみては。


Masayoshi Fujita“Tears Of Unicorn”
ビブラフォンのみのヴァージョン。アルバムでは他の楽器も演奏に加わったテイクが聴ける。

小暮伝衛門「好色萬声男」(1990)

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今回の再集結も好評のうちに終了したらしい(私は前回初めてライヴを観て気が済んだので今回はノーチェック)聖飢魔IIのヴォーカリスト、デーモン閣下が小暮伝衛門名義で発表した1stソロ。タイトルは「こうしょくよろずごえおとこ」と読む。これ、知る人ぞ知る傑作でいつか紹介したいと思っていたのだが、この2月に他のメンバーがやはり90年代前半にリリースしたソロ/ユニット作と一緒にリマスターの上再発されたことで、ようやく採り上げる機会を得た。

契約の都合上急遽リリースされたという事情もあってか、収録曲の半分はカヴァー(閣下が学生時代に参加していたスーパースランプの曲も含む)で、1か月ぐらいで製作された急ごしらえのアルバムなのだが、様々なアイディアがこれでもかとブチ込まれた、物凄いゴッタ煮ぶりにとにかく圧倒される。

逆相で録音された不可思議な感覚のサウンド+奇数拍子+ヴァイオリンのオープナー“桜の森(Space Trip Mix)”や、美空ひばりが死後に国民栄誉賞を受賞したことが着想の一つとなっている歌謡曲テイストのバラード“縁(えにし)”、環境問題にスポットを当てた歌詞がデーモン閣下らしいメッセージ性の強いハード・ロック“地上絵(「野性の王国」のテーマ)”といったオリジナル曲も素晴らしいのだが、Janis Joplinに李白の漢詩を乗せ、ゼノン石川と江川ほーじんのスラップが唸るファンクに仕立てた“Half Moon~月下独酌~”やThe Fifth Dimensionの曲が坪内逍遥の詩、閣下の多重Vo、女性コーラス、コンガ、笛等が入り乱れる超絶シンフォ・プログレに生まれ変わった“Aquarius~帰墟~”といったカヴァー曲群もまた圧巻の出来。21世紀に笑えないネタというかPC的に難ありな“さわりたひ”は、まあ、ご愛敬。尺八、琵琶といったのちの邦楽維新Collaborationに繋がる和楽器との関係もここから始まっている。

帯の煽り文句によるとゲスト参加は総勢100名にも及ぶそうで、聖飢魔IIで使えないネタを全部使いましたとでも言わんばかりの豪華絢爛さが眩しい、重厚な一枚。タイトルよろしく、閣下の歌声も、知らない人が聴いたらメインVoが複数いるのでは?と勘違いするほどの変幻自在ぶり。ショートコントまで収録されていて、とにかく、色んな意味において普通ではない。

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