非思量

竹澤悦子「へちま」(2013)

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沢井忠夫/一恵のもとで筝を学んだ竹澤悦子(筝、三味線、笙、Vo)の1stアルバム。私の中で筝奏者というと、デーモン閣下の邦楽維新コラボレーションに参加していた福田千栄子(現・栄香)や、尺八+筝×2でプログレ色の濃いサウンドを展開するKokooのメンバーである八木美知依(Steven Wilson「Insurgentes」(2009)にも参加)のように、脱境界な活動を展開している人が多い印象(竹澤の師匠である沢井一恵にもフランス人コントラバス奏者、Jöelle Léandre〔Joelle Leandre〕との「Organic - Mineral」(2001)という、強烈すぎてどう接すればいいのか分からないインプロヴィゼーションの共作があるなあ、そういえば)がある。

今回紹介する竹澤悦子もやはりボーダレスな感覚を持ったミュージシャンのようで、この「へちま」も向島ゆり子(Vln)や坂田明(Sax、Vo)、板橋文夫(Pf)といった、これまた脱境界なミュージシャンを招いて製作された作品である。“耳はむ魚“はジャワ舞踊家の委嘱により作られた曲、恨-Han-”は韓国の伽倻琴(カヤグム)奏者、池成子(チ・ソンジャ)への憧れが基になっているとのこと。

全体的にアコースティックの凛とした音の響きが「和」を強く感じさせる作風ではあるが、その中にするっと入り込む各種異分子や趣のある竹澤の歌声が、緊張と緩和のコントラストを描き出す一助となっている。例えば“耳はむ魚”はクマナというインドネシアの青銅打楽器が深遠さを演出、坂田明のサックスやヴォーカルも味わい深い。その他の曲も個性的で、意欲的な作品だと思う。


竹澤悦子“Hi・Ka・Ri”

この動画はアルバムとは異なり、太田恵資(Vln)とのアンサンブルで演奏されている。

聖飢魔II「Ponk!!」(1994)

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今年に入ってから、聖飢魔IIのソニー時代のオリジナル・アルバムがリマスター&Blu-spec CD2で再発されている。4月に3rd「地獄より愛をこめて」(1986)、4th「Big Time Changes」(1987)、5th「The Outer Mission」(1988)がリリースされていたが、7月に入って1st「悪魔が来たりてヘヴィメタる」(1985)、2nd「The End Of The Century」(1986)と共に本命の6th「有害」(1990)、7th「恐怖のレストラン」(1992)、そして今回紹介する「Ponk!!」がリリースされた。というワケでようやく「Ponk!!」を語れるチャンスがやってきたわい。

ベスト盤「Worst」(1989)、続くシングル「Bad Again~美しき反逆」(1990)でセールスが頂点に達した後、90年代に入って音楽性に揺らぎが見えてくるのだが、実はメンバーにメタラーがいない聖飢魔II、ここにきて前作「恐怖のレストラン」とは正反対の世界観を描き出しており、ついにメタルであることすらほぼ放棄している。何せ1曲目“千年香妃花”(この曲名、未だにどう読むのか知らない)はポルカなのだ。更に“闘う日本人”はファンク、“ロマンス”はフォーク、“A Stick And Honey”はプログレ・ハードではあるが東洋風フレーズを導入してミステリアスというかサイケというか、まあやりたい放題。

バラードが多いのも特徴。初々しい“Teenage Dream”“Just Let Me Go”、友との永遠の別れを歌ったシリアスな“The Requiem”等々。全体的に多彩かつポップで、当時デーモン小暮が出演して大ヒットしたフジカラー「写ルンです」CMやシングル「世界一のくちづけを」(1993)の流れに沿った、とても親しみやすい、言葉を変えればこれまでのファンを切り捨てることも厭わない作風。これでセールスが良ければ「勝てば官軍」だったのだろうが残念ながらそうはならず。当事は閣下のスキャンダル等が原因でバンド内外に大変な逆風が吹いており、新規のファンは獲得できず、逆に長年のファンは離れていく結果となった。ツアーの客入りも厳しかったらしく、閣下のソロ「Demon As Bad Man」(1995)、シングル「赤い玉の伝説」(リマスターVer.)をリリース後、聖飢魔IIはこれまで所属していたソニーを離れている。

かく言う私もこの頃から聖飢魔IIとやや距離を置くようになって(洋楽にハマり出したという事情もある)「Demon As Bad Man」、未だに聴いたことがない。先行シングルがいまいちピンと来なかったことだけは覚えている(c/wが聖飢魔IIによるThe Beasty Boysのカヴァーという、今思えば当時の状況を象徴するような意味不明というか、チグハグなものだった)。

話が逸れたが「Ponk!!」、あえて人に薦めようとは思わないが「有害」「恐怖のレストラン」と並んで10代後半に最も良く聴いたアルバムなので、思い入れは深い作品である。エヴァーグリーンで瑞々しい“Teenage Dream”やゼノン石川のベースが冴え渡る“優しさが人を殺める”等は今でも大好き。再発にあたって施されたリマスターは、90年代の作品、しかも潤沢な予算をかけてアビィ・ロード・スタジオで製作されたそれなので元々音質は悪くなく、私の耳には「まあ、変わったといえば変わったかな」程度。それよりも今回改めて聴き返す事で、タメの利いたライデン湯沢のドラムが大変印象に残った。演奏、楽曲は充実している。

あとはベスト盤「Worst」、シングル集「愛と虐殺の日々」(1991)、ロンドンでのライヴ盤「Live! Blackmass In London」(1992)の再発も強く希望。


聖飢魔II“Teenage Dream”

Deenのヤツとは同名異曲だが、だいたい同じような時期にリリースされ、しかも後から出たDeenの方が売れた。こういうところでも聖飢魔IIの勢いが落ちていることを感じさせられたものである。

Brandt Brauer Frick「Miami」(2013)

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ドイツの3人組人力ミニマル・テクノ・ユニットによる3rd。

The Brandt Brauer Frick Ensemble名義の前作「Mr. Machine」(2011)は1st「You Make Me Real」(2010)収録曲を大人数のアンサンブル編成で再録音することが主目的となっているような作品で「これでもう目一杯かな?」と思ったが、どうやらアイデアの引き出しにはまだ奥行きがあったようである。

単調な4つ打ちのリズムがダンス・ミュージックであることを主張しているが、相変わらず享楽的なノリとは無縁、電子音に頼らない重層的なサウンドでチェンバー・ロック愛好家にアピールするその曲調はさらにダークかつ複雑さの度合いを増している。さらにゲストVoにJamie Lidellを起用した“Broken Pieces”のようにダーク・チェンバー然としたトラックを従えつつソウルフルな歌モノになっているものまで。“Verwahrlosung”はレコメン系にもアピールしそうな気がする。

半分以上の曲で起用されたゲストVoの存在が決め手となってソウルのフレーヴァーが漂うミニマル・ダーク・チェンバーという奇っ怪なシロモノに仕上がっており、当の本人たちがどう思っているのかはわからないが、私の耳には(様式としてのそれではなく)「プログレッシヴ」な音楽に聴こえて面白い。予想外の成長振り。


Brandt Brauer Frick feat. Om'Mas Keith“Plastic Like Your Mother”

Believe「The Warmest Sun In Winter」(2013)

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ポーランド産5人組の5th。ヴァイオリン担当のSatomiが正式メンバーから外れ、隠しトラックを含む全8曲中2曲のみ参加のスペシャル・ゲスト扱いとなっている。

Chroma Keyあたりに通ずる、侘び寂びを感じさせるシンフォニック・ロックをコアに据えつつ、メタリックな硬質さやタブラ/シタールまで導入して演出されるエキゾチシズムが前作「World Is Round」(2011)の特徴だったが、そういった独特な硬質さ/エキゾチシズムはかなり後退している感がある。

出だしのイントロ“The End”~AOR風味のソフトなバラード“Beginners”という流れは大変良いのだが、似たような色合いの曲が続くのがチト辛い。Karol Wróblewskiのヴォーカルが柔らかい声を多用するスタイルを採っていることもあり、Mr. Gilをロック寄りにしたサウンドに聴こえる場面もあり、結果、作風としてはさらなる侘び寂びの境地へ。ヴァイオリンが舞う“Please Go Home”あたりは前作の雰囲気を維持しているように思えるが。

通して聴くとヴァイオリン不在の穴は結構大きい気がする。ギターと鍵盤/シンセ類がその穴を埋めようと奮闘しているのはわかるし、個々の曲の出来も良いが、アルバム1枚で評価するとなると、もう少し多様性を感じさせる方が個人的には好みかな。まずはヴァイオリニストをパーマネント・メンバーとして再度固定して欲しい。「World Is Round」でのヴァイオリンはアルバムを輝かせる大きな武器になっていたと思うから。


Believe“Unborn/Turn Around”

Anna María「Saknad Fornaldar」(2013)

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アイスランドの女性シンガー、Anna María(Maria)の1st。作曲クレジット上の表記はAnna María Björnsdóttir。ジャズ・ギタリストHilmar Jenssonのサポートを受け、古今アイスランドの詩(そのほとんどは100~300年前のもの)を自作の曲に乗せて歌っている。なお、作品名を現地語込みで正確に表記すると「Saknað Fornaldar」。

ピアノやギター、ストリングスや時にエレクトロニクスを導入したシリアスな歌モノだが、聴いていて、アメリカのThe Book Of Knots(1stしか持ってないけど)を連想した。と言っても音楽的に似ているということではなく、聴いていて脳裏に浮かぶ心象風景が「灰色の空」であるという一点においてのみ、この2つの作品は方向性が一致している。

ただ、灰色の空の下に広がる風景はまるで異なる。廃液が水路に垂れ流されている工場地帯のような重苦しさが漂うThe Book~とは対照的に、「Saknad Fornaldar」で広がるイメージは、ジャケットにあるような、岩肌も顕な荒涼たる大地。重々しい雰囲気であることは確かだが、時にジャジーな表情も見せるヴォーカル/インストからはドリーミーかつプリミティヴな透明感も感じられる。

下の動画を見ればわかるようにオーソドックスな美声の持ち主で、IKIというインプロ系ヴォーカル・ユニットのメンバー(YouTubeに動画がポツポツ落ちている)という経歴から想像されるようなエキセントリシティは、曲調からはあまり感じられない、と思う。かと言って聴きやすいかといえば全くそのようなこともなく。かなりの強度で聴き手に迫ってくる。非常にディープな作品。


Anna Maria“Í Landsýn”

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