非思量

Aranis「Made In Belgium」(2012)

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ベルギー産チェンバー・ロック・グループの5th。前作「Roqueforte」(2010)でクレジットされていた8人のメンバーのうちドラマーとヴィオラ奏者が脱退、ピアノ奏者も交代してメンバーは総勢6名(Vln+Accodion+G+Pf+B+Flu)となっている。また、Trey Gunn(Touch Guitar)とPierre Chevalier(G)がそれぞれ1曲ずつゲスト参加している。

今回は趣向を変えて、母国ベルギーのチェンバー・ロック系ミュージシャン/コンポーザーの曲を録音したカヴァー・アルバムとして製作されている(1曲のみオリジナル)。オリジナルを除くと9名の曲が採り上げられているが、私が名前を知っているのはDaniel Denis(Univers Zero)とRoger Trigaux(Present)ぐらいかな。前者の曲は自身のソロ・アルバムから、後者はPresentの2nd収録曲が選ばれている。

カヴァー・アルバムではあるが、アルバムを聴いた印象としては前作とそう大きくは変わらない。アンサンブル重視かつダークではあるがドロドロした感じは皆無。Univers Zeroからドラムを抜いて少しノーブルなテイストを加えた感じ。オリジナルを全く知らないこともあって、純粋に新作として楽しめた。ドラマーの不在は一切気にならない。率直に言って、前作でもあまり存在感なかったからな…。

前にも書いたが「Songs From Mirage」(2009)の神秘性に強く魅かれた身なので、攻撃性でも神秘性でも暗黒性でも何でもいいから、もう少し針を振り切った方向性に舵を切ってくれると個人的にはうれしいのだが、今の「中庸ダーク・チェンバー」的路線のほうが支持は得られやすいかな。いずれにせよ、質は極めて高い。Wim Mertensという作曲家による、ミニマルなフレーズをフィーチュアした優雅な作風の2曲(“Gentlemen Of Leisure”“Salernes”)が非常に良かった。


Wim Mertens“Gentlemen Of Leisure”
Aranisが演奏しているテイクは発見できなかったので、参考としてオリジナルを。

今沢カゲロウ@鳴門D-BOX(2012.11.17)

昨年は3月にThe Nationalを見る予定だったのが体調不良&東日本大震災でダメになり(振替公演はとても観に行けるような日程ではなかった)、今年は2月のUnivers Zeroが仕事が立て込んでいて、4月のDream Theaterが体調不良(公演日の3日後に緊急入院)で共に行けず…というワケで、今沢カゲロウのライヴが個人的には実に2年ぶりのライヴ参戦となった(ちなみに2年前に観たのは聖飢魔II)。

で、その今沢のライヴを観るのは実に4年ぶり。毎年鳴門に来てくれているのだけれど、忘れていたとか、行くつもりでいたけどうっかり酒を飲んで車に乗れなくなった(私の家から会場まで車で30分かかる)とかで何となく3回ほどサボってしまいまして。で、私が見ていなかった3年間に限り、通常の6弦フレットレス・ベースではなくフレッテッドのベースを使ってツアーしていて、今年から再び6弦フレットレスに戻したのだそう。今回のライヴ、フレットレスなのかフレッテッドなのか会場に来るまでわからなかったのだが、結果として貴重な機会を見逃していたことになる。サボるものではない。

それよりも大きなトピックは、今沢が1年前に左足に大怪我を負ったこと。何せフット・スイッチを駆使してのセルフ・サンプリングが彼のライヴでのキモの1つなワケで、公式サイトで「左足の機能をコンピューターに変換」という記述はあったが「はて、どういう風に?」と、どちらかと言うと期待よりも不安のほうが大きかったのは事実。打ち込みに合わせてベースをレロレロ弾いてるだけではひとつも面白いことなんかないわなあ、と。

ところがところが。実際のライヴは当方の不安を軽く吹き飛ばす凄まじいものだった。手元で操るリズムマシーン(?)及びフットスイッチ。この2つがやけにポップ、というかオモチャみたいなデザインで妙に気になった(調べてもアレが何なのかわからずじまい)がそれはともかく、それらプラスラップトップからなるデヴァイス類を駆使してトラックの一部をデヴァイスに任せつつ(但し曲のテンポは今沢の演奏で決まるのだそう。テクノロジーの進歩って凄い)例のセルフ・サンプリングは健在、彼ならではの情報過多なウォール・オブ・サウンド絨毯爆撃が炸裂。全然変わってねえ!

いや、変わってないてこたあないんだが、新しいシステムに飲まれることなく、使いこなすことで「今までの凄かったこと」と「新システムでできるようになった凄いこと」が当たり前のように融合していた。この期に及んでまだこれほどまでに進化の余地があったとはねえ…。まさに怪我の功名というか逆境をプラスに転じさせる強靭さ、そして日々の鍛錬の賜物であろう。彼のライヴを観たことがある人なら皆が知っている「メトロノームはクビ」ネタも進化しているんですよ。

第2部に組まれている恒例のセッションは若いG,Dr(たぶんまだ10代)と。1曲目はヤングな2名から明らかに緊張の色が伺えたが2曲目は結構良かった。ドラムのキックが達者だった、と楽器がろくすっぽできないクセに偉そうに書いてみる。客の数は多かったとは言えないが元々狭い会場だし、トーク等から全体的に密室芸的な匂いが漂うので、あれぐらいでちょうど良いのかもしれない(そりゃ多いに越したことはないけど)。それより何より雰囲気が良くて楽しかった。休憩中に物販のTシャツやCDを大人買いする人が出現。そばで漏れてくる会話を聴いているとどうやらベースを弾いている人らしかったが、初めて観たのだろうか。だとしたら相当な衝撃だったんだろうな。

かく言う私も最初期の、作った本人曰く「尖りまくっていて生意気な音」な2nd「Sci-Fi Basso + Live In Berlin」(1998)を購入、昆虫MCで出てきたミイデラゴミムシをジャケットの裏に書いてもらった。あと1枚、1stを買えばひとまずオリジナル・アルバムはコンプリートか?来年の物販で置いてあったら買うとしよう。

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ブックレット裏面のデザインに妙に馴染んでいる、写実的なミイデラゴミムシ。

Geoff Tate「Kings & Thieves」(2012)

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Queensryche(以下QR)を解雇(?)されたヴォーカリスト、Geoff Tateの2ndソロ。国内盤、出るんですかね?

Geoff Tateは相変わらず我が道を進んでいる。ミッド・テンポのオープナー“She Slipped Away”が彼にしてはキャッチーな雰囲気のハード・ロックだったので「ここにきてようやく心を入れ替えたか」と油断させておいて、その後は「Q2K」(1999)、「Tribe」(2003)、あるいは「Dedicated To Chaos」(2011)あたりに通ずるグランジくずれというか、とにかく大多数のQRファンが望んでいるであろう路線からは遠く離れた楽曲をずらずらと並べている。ラストの“Waiting”は辛うじて“I Will Remember”のような叙情性を微かに醸し出しているが、“I Will Remember”のハイ・ノートはここ(に限らずアルバム全編)では聴けないのでやはり多くのファンは落胆するだろう。

高音が出ないという事実は私にとって大した問題ではない。言いたいことは「一刻も早くKelly Gray(g)を切るべき」。コレに尽きる。録音とミキシングも担当しているこの人の才能のなさには常に愕然とさせられる。Tateがどれだけ歌に感情を込めようと、コイツのせいで出てくる音は灰色一色に塗り込められてしまう。演奏についても然り。一方「Dedicated To Chaos」も今作同様Grayが録音とミキシング担当だったが、コチラはメタルどころか「ロックであること」すらいくつかの曲では放棄してしまい、針の振り切れたアレンジを施すことによって随分と面白い仕上がりになっていた。

恐らく「Dedicated~」で頑張ったのはScott RockenfieldとEddie Jackson。しかし当たり前のことだが「Kings & Thieves」に2人の姿はない。残ったのはキャッチーなメロディが書けないヴォーカリストと無能なギタリスト。結果、フックに乏しい楽曲がだらだらと流れていく、何とも掴みどころのないアルバムになってしまった。まあ好意的な目で見れば「ある程度聴きこめばそれなりに味わい深さも感じられる作品」ではあるし、絶望的にダメとまでは言わない。でもだからこそ「ダメだ」と言わざるをえない。中途半端すぎる。QRから大きく距離を置いたモダン・プログレ然としたポップな装いの1stソロ「Geoff Tate」(2002)の方が遥かに良かったし、「Q2K」や「Tribe」もまだ「好きだ」と言える曲があるだけずっとマシだったぞ。

私自身は決してこのアルバムは嫌いではないんだが、それにしても…。海外のサイトでは「career suicide」とまで書かれてしまっているが、徐々に人も金も周りから消えて「素人に毛が生えたような楽器隊を従えてQRナンバーをセルフ・カヴァー」とか「伴奏がアコギだけ」とか、見るからに悲惨なアルバムを作っている未来がこの作品から透けて見えてしまう。それが悲しい。

「Geoff Tateのヴォーカルが聴ければ何でもいい」という方はどうぞ。


Geoff Tate“Dark Money”

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