非思量

今沢カゲロウ「Hansa」(2011)

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日本人ベーシスト、今沢カゲロウ2年ぶりの14thは10th「Folks」以来となる自主レーベルからの発売。

過去2作のジャズ・ロック路線から一転、エレクトロニカ色が非常に濃い作品となっている。3月の震災の影響というのは当然のように新作にも及んでいるワケだが、彼は「逆に今こそ皆さんの心をアゲていく、明日への意欲を高めていくような音楽」(公式サイトの日記より)を作る道を選んだ。

というワケでしょっぱなの"Garp"から非常にテンションが高い。ハレーションのように強い光を放つ音の連なりの中を力強いスラップ・ベースが駆け抜ける曲。「Cyborg OM」の強制ピストン運動のごときあのマシーナリーな感触が蘇っているが、当時のダークでマニアックな質感が華やかかつ洗練された、キャッチーなものに変化している。尖った音楽性の中にシンプルでフックのあるメロディを上手く共存させていると思う。"Sell"は暖かみも感じるし、"Splashman"はまさに心がアガる曲。カッコいい。

惜しむらくは6曲入りで21分という尺の短さ。さあここから、というところでブツッと終わってしまう"Garp"を筆頭にどうも食い足りなさが残る。長ければ良いというものではないが、せめて30分台後半ぐらいあればなあ。惜しい。

ProjeKct Two「Live Groove」(1999)

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「今これをレビューする意義があるのか?」フェアー第2弾。あ、第1弾は1つ前のエントリです。

第5期のWトリオ編成のKing Crimsonは「Thrak」リリースとそれに伴うツアーの後、新作の曲作りの一環としてWトリオを解体(Robert Frippは「フラクタル分裂」と称した)した3~4人の「ProjeKct」と名付けられたユニットによるレコーディング/ライヴ活動を97~99年にかけて行った。今回紹介するのは「One」から「Four」まであるProjeKctの2つ目(でも活動を始めたのは一番最初)にあたるProjeKct Twoのライヴ盤。

ProjeKct One~Fourの全てに参加したのはRobert FrippとTrey Gunnのみで、あとOneとFourでTony Levinが参加しているのだが、注目すべきはProjeKct Twoで本来はギタリストであるAdrian Belewがドラマーとしてクレジットされていること。弦楽器隊がほぼ固定なだけに、ドラマーのキャラクターがそのままProjeKctシリーズ各作品の個性に反映されている気がする。どうしても70年代CrimsonぽくなるBill Bruford(ProjeKct One)、オーソドックスな8ビートが一番似合うのに凝り過ぎてどうにもマニアックな音になってしまうPat Mastelotto(ProjeKct Three & Four)に対し、本作におけるBelewは本人のキャラクターそのままに軽快なプレイを聞かせる。ちなみにBelewはV-Drumを使用。

さすがにタイトさという面では本職に一歩譲るがドラムをワン・ステージこなしてしまうのは素直に凄いし、また「ギタリストなのにドラムをワン・ステージこなしてしまえて凄いね」で終わりではないところも凄い。本作に先立って98年にリリースされたスタジオ盤「Space Groove」はBelewのドラムも含め、全編で手探り感が漂うアルバムだったがライヴではまるで別バンドのようにヘヴィかつ強靭なグルーヴを生み出している。BrufordやMastelottoと異なるキャラのドラマーを得て、Frippのギターもまた饒舌。肩肘張らずに聴けるポップなアヴァンギャルド・ミュージックとしての完成度はかなり高い。なお、ラストに"21st Century Schizoid Man"が収録されているがこれはほとんどジョーク。

この後、ProjeKctはBrufordの離脱やスケジュールが合わなかったLevinの不参加を受けて残る4人からなる第6期Crimsonへと収斂していくのだが、第6期の作品で現れるフレーズが登場していたり、Crimsonのライヴでも演奏された"The Deception Of The Thrush"が収録されていたりと、後追いのKing Crimsonリスナーにも興味深い作りになっていると思う。70sの味わいを求めるならProjeKct Oneがいいし、ProjeKct FourはProjeKct Twoより更にその後のCrimsonに接近しているが、まず何より1枚の作品として出来がいいのはコレ。

H(Steve Hogarth)「Ice Cream Genius」(1997)

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例年、8月はCDの購入枚数が少なくて、このブログでも8月になると旧譜の紹介やらプロレスの観戦記やら企画モノやらでなんとか更新頻度を維持していたりする。

今年も今月に入ってまだ1枚もCDを買っていない(注文した新譜が届かない)ので旧譜のレビューなぞ。Marillionの2代目ヴォーカル、Steve HogarthのH名義によるソロ・アルバムである。1997年作だからEMIからドロップされてから初めてのアルバム「This Strange Engine」と同じ年のリリース。「This~」国内盤は当時日本で最もプログレに優しいレーベルだったポニーキャニオンからの配給だったが、「Ice Cream Genius」の国内盤発売は見送られている。

それ故、日本ではこの作品を知る人自体少ないだろうが、参加メンツはなかなかに豪華で、Richard Barbieri(Key - 元Japan)、Dave Gregory(G - 元XTC)、Chucho Merchan(B - 元Eurythmics)、Clem Burke(Dr - 元Blondie)といったニューウェーヴ系人脈プラスLuis Jardim(Per - 詳しくはWikipedia参照)という布陣で製作されている(その他、「Additional Genius」としてSteve Jansenらもクレジットされている)。

現在流通しているのはオリジナルの8曲入りにボートラを追加した計9曲。「Radiation」以降のMarillionのプロトタイプのようでもあるが、でもやっぱりMarillionとは違う。気だるい空気と浮遊感、時折漂う荘厳さ。簡潔にまとめるとそんな感じの作風。力の抜けたヴォーカルが多彩な曲調と共にゆったりと流れていくが、Richard Barbieriが空間を覆いつくすようなシンセを聞かせる"The Deep Water"、"Nothing To Declare"がそれぞれ中盤、終盤のハイライトとなっており、アルバムを引き締めている。後者はHogarthの流儀で作った"The Space"といった趣きも。

明らかに90年代以降の文法で作られた音楽なので、Hogarthが加入して間もない時期のMarillionや、Marillion加入前にHogarthがやっていたHow We Liveのようなクッキリした音は望むべくもないが、Marillionでも音楽的イニシアチヴを握っているであろうHogarthの最も素に近い部分がムキ出しになっていてこれはこれで味わい深い。ちなみに、BarbieriやGregoryも参加したThe H Band名義の2枚組ライヴ・アルバム「Live Spirit Live Body」(2002)はPeter GabrielやPink Floyd等のカヴァーも収録した好盤。機会があればこちらもチェックしてみては。


H"Better Dreams"

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