非思量

Ektar「Kontrapunkt」(2010)

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ハンガリー産7人組トラッド・バンドの3rd。過去2作は未聴。

出だしはいかにも西欧クラシック出自の室内楽然としているのだが、地中海方面を思わせるメロディの女声スキャットが俄然妖しさを醸し出してくる。現地語で記載されていると思しき曲名はさっぱり意味が分からないが、現地語曲名のあとに"Song From The Border I."とあり、チェンバー・ロックという1つの枠に囚われていないのは意識的なものだろう。

続く2曲目はウッド・ベースのソロで始まるが、やはり女声スキャットが妖艶さの中にほのかに哀愁を漂わせるメロディをゆったりと聴かせる。このあたりになると結構ジャズ・ロック色も濃くなり、シリアス・チェンバーとか、そういう系統かなと思っていたコチラを見事にはぐらかしてくれる。その後はチェンバー~中欧トラッド~ジャズ・ロックのみならずタブラやサーランギがアラブ/南アジアテイストまで漂わせてきて、なかなかに強烈なハイブリッドぶり。

この目まぐるしさというか雑多さというのは、やはりハンガリーという、アジアと西欧の中間点にある地域ならではのものなのかも知れない。そういえばEddie Jobsonプロデュースでブルガリアの女声クワイアをフィーチュアしたThe Bulgarian Women's Choir - Angelite「Voices Of Life」(2000)も、曲調は西洋的なのにクワイアの和声やコブシの利かせ方がどことなく東洋的で興味深いシロモノだった。まあそれはともかくこのEktar、幽玄の美を感じさせるアコースティック音楽としてなかなか面白いグループだと思う。


タブラ奏者を除く6名による2007年のライヴ映像。

Gary Moore「Dark Days In Paradise」(1997)

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Gary Mooreについては、何せアルバムを2枚しか持っていないので語れることはあまりない。

97年頃、少しは80年代のハード・ロック~ヘヴィ・メタルもかじってみようと思い、その流れの中で「After The War」(89)を手に入れたのが最初。色々あって時間だけはアホみたいにあったので結構聴いた筈だが、くぐもった声質で妙に力みがちなVoがどうにも受け付けなかった記憶だけが残っている。良い曲も多かったように思うが「After The War」は実家に置いてあるので、今聴くとどう感じるのかは確かめようがない。

で、次に買ったのが97年リリースで今回紹介する「Dark Days In Paradise」である。「After~」であまり芳しい印象を持たなかったのに何故これを自分が買ったのかわからないが、いずれにしても発売日からそう経たないうちに買った。で、こちらは未だに時々聴く。

この作品を聴いたハード・ロック時代の彼(のみ)を愛する人達は引っくり返ったかも知れないが、私はMooreのギター・プレイにとんと無知な上にさして興味もなかったのが逆に良かったのだろう。マシンガン・ピッキングがなくても個人的には全然問題なかったのである。そもそもこの作品にはそのテのハード・ロック的なモノが入り込む余地がない。確かに「冒険作」「問題作」という言葉が似つかわしいが、それと同時に「傑作」という言葉が与えられても全然不思議ではないと思う。確かMoore自身もこの作品の出来にはかなりの自信を持っていて、正当な評価を得られていないことに強い不満の意を表明しているインタビュー記事を過去に読んだ記憶がある。

とにかくドラム・ループにエフェクトの効いたVoという、当時のハード・ロック・リスナーが発狂しそうなオープナー"One Good Reason"からドラマティックな泣きのバラード"Like Angels"まで、1つ1つの曲がキャラ立ちしていて、なおかつ出来が良い。ドラムン・ベース、トライバル・リズムといったリズム面での多彩なアプローチとキャッチーなメロディが良いバランスで融合しており、そんな中でギターもあくまで歌の引き立て役に徹しつつ良い味を出している。ヴォーカルもこういう音がバックだとムダな力みがあまり感じられなくて実に良い塩梅だったりする。

トレンドを貪欲に取り入れつつ決して流行に流されたワケではない、しかし異端であるが故にあまり省みられることがないこういう作品こそ語り継いで行きたいのである。他の作品は自分以外の人がもっと上手に語ってくれるだろうから。ほのかにアイリッシュ魂を感じさせる自身の半生記にして13分超のモダン・プログレ曲"Business As Usual"を聴きつつ哀悼の意を。


Gary Moore"Business As Usual"

Masquerade「Surface Of Pain」(1994)

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真打登場です!

私の音楽的嗜好を形成する上で高3~大学浪人時代に洋楽を聴き始めた事は非常に大きなトピックで、その中でも私の中で大きな位置を占めている作品はDream Theater「Images & Words」「Awake」、Marillion「Brave」「Afraid Of Sunlight」、Queensryche「Promised Land」、King Crimson「Thrak」、そして今回取り上げるMasquerade「Surface Of Pain」である。

Masqueradeだけ飛び抜けて知名度が低いが、彼らは1st「Masquerade」で爽やかなハーモニーやメロディを聴かせたTNTフォロワーとして注目を浴びたにも関わらず続くこの「Surface Of Pain」で当時の流行だったダーク&ヘヴィ路線へ転向、当時のB!誌レビューの言葉を借りるならば「"ヘヴィになることが成長か?"と愚痴のひとつも出るであろう変貌ぶり」を見せたスウェーデンのバンドである。

重く、タメの利いたグルーヴィなリズムやザックリしたサウンドのギターはまさに当時の流行を踏襲したものだが、B!で叩っ斬られていたその他大勢と決定的に違うのは、メロディの質がそのダークネス&ヘヴィネスに飲み込まれなかったこと。変拍子も使いこなす、やや独特な感じのするリズムに乗るメロディは聴き手の耳に残るフックのあるもの。ギター・ソロやコーラス・ハーモニーもしっかりと楽曲の中で躍動している。前述のB!誌レビューでもその辺は押さえられていて、このテの作品、しかも若手バンドとしては結構ポジティヴな評価を得ている。

当時としては異端も異端だったのかも知れないが、今聴いてもやはり何者にも似ていない、しかし十分通用する大名盤。1st好きな人からはボロカスに言われがちだが、2ndが心の名盤だと言う人も結構、いや、少しはいる(DOIMOIの中の人とか)。1つの流行が終わり、新たな流れに飲み込まれようとしていた過渡期に咲いた異形の花一輪。今こそ再評価が望まれる。

私が死んだらラスト・トラックの"Free My Mind"を流して欲しいな!墓場まで持って行きたい1枚。


Masquerade"Suffering"

Steve Reich「Double Sextet/2x5」(2010)

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ミニマル・ミュージックの大御所、Steve Reichの2010年作。全2曲約43分のアルバムで、それぞれ3つの楽章("1.Fast""2.Slow""3.Fast")に分かれている。

1曲目の"Double Sextet"は2007年に作曲され、2009年のピューリッツァー賞を受賞している。Eighth Blackbirdというフルート、クラリネット、ヴァイオリン、チェロ、ヴィブラフォン、ピアノの6人からなるグループによる演奏なのだが、曲名の通り、この6人による演奏に合わせて同じミュージシャンが演奏するというスタイルを採っている。ピアノの細かいフレーズがまさにミニマルという感じで、きめ細やかでありながらダイナミックなアンサンブルとアコースティックの美しい響きがキャッチーさすら感じさせる。

2曲目の"2x5"はBang On A Canという5人編成のバンドによる演奏。"Double~"同様、自身の録音とバンドが共演するスタイル。ツインEギター+Eベース+ピアノ+ドラムという編成からして"Double~"よりもロック色が強いのだが、左右に振られた各クインテットが複雑怪奇に絡み合うサマは80年代のKing Crimsonを想起させないでもない。こちらも細かい破片をランダムに張り合わせたような難解なメロディやリズムを持っているにも関わらず、トータルとしてはとっつき易い。いずれも印象に残る、優れた曲だと思う。

King CrimsonやNik Bärtschといったミニマル・ミュージックを取り入れた音楽を愛聴する割りにReichのアルバムはこれを含めて2枚しか持っていなかったりする、しかももう1枚の「You Are (Variations)」は「Double Sextet/2x5」が良かったので慌ててラックから引っ張り出してきて聴き直しているような有様であるが、静のパート、動のパートいずれにおいても年齢(1936年生まれ!)を感じさせないエネルギーを放つ、非常に豊かな音楽を書く人なのだな、と感じた。ホント今更こんな感想でごめんなさい。もっと早く聴くべきだった。私はここ10年ほどはプログレ関連の書籍やサイト、ブログから情報を得ているが、Reichて意外とプログレの文脈では出てこない名前なのよね…。


"Double Sextet"第三楽章。iCQ Projectによる演奏。

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