非思量

Van Canto「Tribe Of Force」(2010)

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国内盤のオビに曰く「アカペラ・メタル」。ヴォーカルのみならず、ギターとベースのパートも「人間の肉声」でカヴァー(ドラムはそのまんまドラムを使用)してしまうドイツ産大馬鹿者6人組(女性1人含む)の3rdにして日本デビュー盤。

バッキング・トラックに人の声を用いる手法そのものはBjorkが「Medulla」で既にやってしまっているが、(「Medulla」が今、手元に無いんでウロ覚えでの記述になるが)あくまで声を「楽器」として使用していた「Medulla」と異なり、コチラはギター・パートも「歌」の要素が強い。

何せ彼らはギター・パートを「らぬだぬぬだぬぬだぬぬだぬ…」と「歌って」いるのだ(ちなみにこれはMetallica"Master Of Puppets")。こんなの、我々が何となくギター・リフを口ずさむのと同じことじゃないか。そもそもギター・パート担当が「Rakkatakka Guitars」とかクレジットされていて、まあ何と言うか、アホである。

もう一曲目の最初の「ラバラバランバンバン…」でお茶を噴出すレベルのおかしさなのだが、不思議なことに聴き進めていくうちにだんだん気にならなくなる。理由は彼らの演奏(=歌)技術が非常に洗練されていること。これ、誰にでもできそうな気がするけど、ワンフレーズならともかく1曲やり通すのは常人には絶対無理。さらにギター・ソロは思わず「これ、ギターじゃないの!?」と驚かされる(RageのVictor Smolskiとギター・バトル?を繰り広げている曲まである。あ、Smolskiは当然本物のギターを弾いています)こと請け合い。

楽曲はパワー・メタルからシンフォ・メタル、果ては女性Voがメインを取るNightwishばりのゴシック・メタルまで幅広く取り揃えているのだが、これが結構、いや、かなりいい。アカペラじゃなくて、普通にG+B+Keyとかでアレンジしてもソコソコ人気が出たのではないかと思うぞ。まあそれだと私は聴かなかっただろうけど。

これが色物じゃなかったら何を色物と呼ぶんだ、というレヴェルで奇抜だし笑えるブツだが、単なる一発屋に留まらない非凡な才能、センスこそ注目されるべき。最初の「ラバラバランバンバン…」の時点では笑えるけど1~2回聴いて終わりだと思ったんだがなあ。


手っ取り早く彼らの面白さを堪能するにはカヴァーがオススメ。というワケで"Master Of Puppets"。

2010年上半期の3枚

例年、上半期は不思議と印象に残らない作品が多いのだが、今年は「1枚丸ごとスゲー!」というところまでは行かないにしてもインパクトのある作品がチラホラあった。今回は今年1~6月に買ったCDからよりすぐりの3枚を掲載。何か忘れてる気がするけど別にいいか。

1.Shining「Blackjazz」
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出だしの「いよおおおおおおおお!」で掴みはオッケー。


Shining"The Madness And The Damage Done"


2.Anathema「We're Here Because We're Here」
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出だし4曲のポジティヴな美しさは心が洗われるよう。


Anathema"Dreaming Light"


3.Brother Ape「Turbulence」
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2009年の作品。YesやGenesisの影響を感じさせつつ、このアルバムならではの「疾走するリリシズム」みたいなものに強く魅かれた。


Brother Ape"Footprints"

Cynic「Re-Traced」(2010)

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2008年に「Traced In Air」で復活を遂げたCynicの、「Traced In Air」収録曲の一部をアレンジし直して再録した4曲+新曲1曲で構成されたEP。ベーシストのSean Maloneは残念ながら不参加、ツアーで弾いていたRobin Zielhorstがメンバーとしてクレジットされている。

フレットレス・ベースやクリーン・トーンのギターにデス声(andヴォコーダー)を組み合わせるという突き抜けた手法やひたすら複雑なビートを叩き出すドラムがエキゾチックかつ華麗な音世界を築いていた1st「Focus」が既にリリースから17年を経ているにも関わらず、未だにオリジネイターとしての輝きを全く失わない稀有なアルバムであるが故に、その1stの表面をなぞっただけのような2nd「Traced In Air」にはどうも入り込めなかったのだが、この「Re-Traced」はいい。

しょっぱなの“Space”でいきなり現れる打ち込みリズムに面食らうが、メタル色のみならず彼らの出自の1つであるジャズ・ロック/フュージョン色も希薄。強いて言えばChroma Keyに近い空気が漂う、隙間の多い、醒めた内省的なサウンド。「Focus」とは全く異なるヴェクトルでオリジナリティをアピールしているが、独特の浮遊感やしなやかなアンビエンスが「Focus」に通じているのは興味深いところ。

「Traced In Air」を聴いてる時には気づかなかった(というかあまり聴いていない)が、音をギッチリ詰め込んだ演奏に埋もれがちだったメロディの良さにハッとさせられることが多かった。「Re-Traced」はデス声もヴォコーダーもなく、歌をメインに据えた音作りをしているため、派手さは無いものの繊細で良質なメロディが耳に残る。ラストの新曲“Wheels Within Wheels”も、高速ツーバス導入で他の4曲に比べたらメタル成分多めとなっているものの、アルバムの流れを壊さないようにアレンジされている。

「Traced In Air」が元ネタとしてあるからCynicとして成立する作品ではあるが、私はこういうの好きだ。


Cynic“Integral”

Soilwork「The Panic Broadcast」(2010)

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かつて作曲面の核で「Stabbing The Drama」の後脱退したPeter Wichers(g)が復帰した8th。ドラム・パートを除いてWichers所有のスタジオで製作されている。

前作「Sworn To The Great Divide」は攻撃性が大幅に後退したミッド・テンポ中心の地味な作品で、正直なところあまり印象に残っていないのだが、今回は冒頭にスラッシーな“Late For The Kill, Early For The Slaughter"を配し、グロウルと普通声、ファスト~ミッドのテンポの使い分けで起伏をつける手法はそのままにアグレッションの復活を大いにアピールしている。ミドル~スロー・テンポの曲も多いが、今回はアグレッシヴな曲が作品を引っ張る構成になっているのと、メロディの説得力が増しているのでたるんだ感じはほとんどない。ブックレット等にクレジットがない(?)ので断言はできないが、やはりWichers復帰の効果が現れているのだろう。

ただ「Natural Born Chaos」「Figure Number Five」のような臆面もないどキャッチーな感じではなく、メロディの持つ渋い輝きが風格につながっていると思う。渋さの中にスピード感とメロディを両立させた“Deliverance Is Mine”はこの作品のハイライト。この曲はかなりいい。ちょっと変わった色合いのところだと“Let The River Flow”はアコギにロンド風のリズムも導入、良いアクセントになっている。

ヴォーカルもこれまでよりも一段高い領域へのチャレンジが感じられ、緩やかに下降線を描いていた楽曲のクオリティも持ち直してきている。個人的には満足。ただ、敢えてケチをつけるとすればドラムの音はちょっと気になるな。シャープさが持ち味のDirk Verbeurenがややスポイルされている気がするのだが…。

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