非思量

The Gathering「The West Pole」(2009)

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オランダ産バンドの20周年を飾る9th。前作「Home」を最後にバンドを脱退したAnnek van Giersbergenに代わってSilje Wergelandを新Voとして迎えて製作された。ちなみに、新Vo以外にも“Capitol Of Nowhere”でAnne van den Hoogen、“Pale Traces”でMarcela Bovioという2人の女性Voが参加している。

Annekが文字通りバンドの「顔」だっただけにまずはSiljeの歌に関心が向くワケだが、濁りのない美声という点では共通しているが、真正面から突き刺さってくるようなシリアスさを持つAnnekと比べると、包み込むような、より女性的な空気を纏った声、という印象。ひとまずスタジオでの実力には文句なし。さすがにライヴ映像を見ると前任者ほどのオーラは感じられないが、まあそこは今後の成長に期待ということで。

内容に目をやると、冒頭のインスト“When Trust Becomes Sound”は躍動感溢れるギターやドラムが荒削りな若々しささえ感じさせる曲で、続く“Treasure”に至っては、雲の切れ間から差し込む光を感じさせる暖かく美しいメロディや“When Trust~”に続くキメの粗い音のギター等が、何と言うか、エモい。こういう作風の曲ってあまり書いたことがないのでは?3曲目の“All You Are”からしばらくは従前のトリップ・ポップ/ノイズ・アンビエント路線が続くが、前述のAnneがよりコケティッシュな、そしてMarcelaがアダルト寄りなヴォーカルを聴かせていて、作品全体で上手く起伏を作り出している。“No One Spoke”“A Constant Run”のやはりエモ風味2曲でラストスパート、Siljeがキッチリ作品を締めている。

無論「Mandylion」「Nighttime Birds」の雄大なゴシック・メタル路線はその残渣すら感じられないが、ここ数作の閉塞感はすっかり払拭されており、メロディが前向きで分かりやすくなっているのが良い。“Treasure”“A Constant Run”は(構成にもうひとひねり欲しい気もするが)名曲だと思う。大好き。今年上半期の一番星。


The Gathering“Treasure”

Crimson Jazz Trio「King Crimson Songbook Volume 2」(2009)

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前作のリリース時点でその存在が明らかにされていたCrimson Jazz Trioの第2作にして恐らく最終作(ドラマーのIan Wallaceが死去しているため)がようやくリリースされた。曲目は以下の通り。

1.The Court Of The Crimson King
2.Picture Of A City
3.One Time
4.Frame By Frame
5.Inner Garden
6.Heartbeat
7.Islands Suite
  Press Gang(オリジナル)
  Zero Dark Thirty(オリジナル)
  Formentera Lady
  Sailor's Tale
  The Plank(オリジナル)
8.Lament

デビュー作は比較的原曲のイメージを尊重した演奏だったが、今回はかなり大胆な解体、再構築がなされている曲が多い。メンバーのソロ小曲を前後に配置して「Islands Suite」という組曲調になった“Formentera Lady”~“Sailor's Tale”をはじめとして、“One Time”や“Frame By Frame”など、曲をイメージづけるリフやフレーズを持つ曲が選ばれていて一体どうするのかと思ったが、聴いてみるとあえてそういった部分は強調せず、あくまでジャズの範疇でアレンジし直されている。

そのおかげで“Sailor's Tale”は原曲の面影がほとんどなくなっているような気がする(“Islands Suite”に関しては、組曲丸ごとオリジナルと言ってしまってもあまり差し支えがないような…)のだが、“Frame By Frame”はギターのパートをピアノとゲストのMel Colins(Sax)が巧みに分担しており「こういう風になるのか」と思わず感心してしまう演奏。また“Inner Garden”ではJody Nordone(Piano)がヴォーカルも担当、少しBelewに近い声質で堂々と歌い上げており、アルバムの良いアクセントになっている。

オリジナルの禍々しさとか神秘性とか、そういうのを求めると両肩が脱臼する勢いでガックシ来るだろうが、あくまで腕の立つピアノ・トリオがジャズのマナーで演奏している作品なのでその辺りは心に留めておく必要がある。「King Crimsonの曲をカヴァーする」という枠の中で前作とは一味違う方向性で仕上げており、原曲を知らなくても「純粋に良い演奏」を楽しめる作品になっているのが良い。

Pure Reason Revolution「Amor Vincit Omnia」(2009)

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イギリス産4人組の2ndフル。彼らの音源を聴くのは初めて。

エレクトロニカというか、曲によってはふた昔前のディスコ・サウンドと言っても差し支えないかも知れないレトロ感覚あふれるバック+混声ヴォーカルが特徴で、Pink Floydの影響下にあると評されていることが多い1stからはかなり趣きが変わっているようだ。Steven Wilson(Porcupine Tree等)がしばしばオープニング・アクトに起用していたとか、そういう前評判に魅かれてこのバンドに接すると確実に1曲目でSTOPボタンに手が伸びるだろう。

私自身、サウンドに違和感を感じつつもなぜか気になるので少しの間寝かせておいて再度聴きなおしたのだが、装飾を剥ぎ取ると、分かり易いキャッチーなメロディが楽曲の核になっていることを発見。1曲目“Les Melheurs”が、女声と男声の掛け合いなんかも上手くとりこんだ、かなり良く出来たポップ・ソングなのよね。続く“Victorious Cupid”や5曲目の“Deus Ex Machina”あたりもフックのあるメロディや混声ヴォーカルの掛け合い/ハーモニーが印象的なナンバー。

紅一点のChloë(Chloe) Alper(Vo.B.Key)が手がけたジャケットも含めて、彼らのセンスが「イケてる」のか「イケてない」のか、私には正直よくわからんのだが、混声合唱を導入して独自性をアピールしている点や、楽曲をコンパクトにまとめる手腕は素直に評価していいだろう。前作と比して出番が減ったといわれる女性Voの比重はもっと増やしてもいいと思うしラスト2曲はちょっとダレるが、なかなか面白い、意外とクセになる1枚。「次の一手が読めない」タイプのミュージシャンが好きならツバをつけておく価値があるかも知れん。


Pure Reason Revolution“Les Malheurs”

James Blackshaw「The Glass Bead Game」(2009)

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1981年生まれという若き英国人ギタリストの、多分7枚目。前々作「The Clowd Of Unknowing」から「次こそは国内盤が出る」と待ち続けて早幾年(2年だ)、その兆しすらありませんな。

12弦ギターorピアノによる執拗な反復をベースに、SE風な使われ方のヴァイオリンやチェロ(今回は1曲目の“Cross”で女性コーラスも導入)等が奥行きを与えることで作られるダウナーかつ美しい万華鏡のような世界は前作「Litany Of Echoes」の薄暗い闇(そしてそこには目に見えない何かがいる)を感じさせる雰囲気を引き継いでいる。

そういった作風ゆえ1曲1曲は必然的に長くなる(最低でも5分台で10分超えもザラ)のだが、ラストを飾る“Arc”は遂に19分近い超大作に。今までになく大陸的なフィーリングを持つ、ゆったりとしたフレーズを奏でるピアノが4分11秒過ぎから一変、弦楽器を従えて流麗なフレーズを少しずつ表情を変えながらこれでもかこれでもかと14分以上も叩き出し続ける。

この14分間はほとんど絶頂を迎えっぱなしというか、まあなんと言うかこの間の陶酔感/高揚感というのは半端ではない。そして余韻を残しながら静かにエンディングを迎える。私は極端に尺の長い曲は基本的に好きではないのだが、これは久々に引き込まれた。他の曲が淡白に聞こえてしまうほどに圧巻。

できれば暑苦しい夏を迎える今みたいな時期ではなくて、秋の夜長に酒でも飲みながらじっくりと対峙したいアルバム。最近聴いた音楽の中でもとびきり濃厚な1枚。


James Blackshaw“Cross”
どっかの公園でのソロ・パフォーマンス。アルバム収録版はコーラス等が加えられて8分半程度の長さになっている。

Devin Townsend Project「Ki」(2009)

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「Ziltoid The Omniscient」以来2年ぶりの新作。HevyDevy(Devinの個人レーベル)からプレオーダーで購入(ブックレットの背面にDevinのサインが入っている)。Devin Townsend Projectとしては1stとなるこの「Ki」は、アルバムごとに全く異なるキャラクターを持つ4部作の第1弾なのだそう(ミュージシャンもそれぞれ異なる人材を起用するらしい)。

正直なところ、はじめはこのアルバムの意図というか、どう接すればいいのかがサッパリわからなかった。ドラム(何とHeartの1stで叩いた人)はリズム・キーパーに徹していてオカズらしいオカズは全くなく、ヴォーカルはスクリームを含めて高音域になるべく頼らずに様々な表現技法を試しているかのよう。濁らせた声で歌っているパートもあるのだが、曲の展開上やむを得ずそうした、という感じで、総じて「激しい音楽を聴くことで得られるカタルシス」とは無縁。

彼の音楽にしては物凄くシンプルで、アンビエントなポップスという趣きすらあるのだが、それだけにメロディの輪郭が比較的ハッキリしており、「Synchestra」あたりよりは分かり易いかも知れない(あまり自信がないな…)。時折導入されている女性ヴォーカルは良いアクセントになっている。あと、ギターの響きが非常に良いことを付け加えておきたい。今更ながら、Devinてギター上手いね。

ドラッグに頼らずに曲作りを進めた(ドラッグなしでは曲を書くことが難しい状態に陥っていたらしい)せいか、良くも悪くも「憑き物が落ちた」ような出来。今までとの方向性の違いや生来のマニアックさ故に、ハードコアなファンの間でしかウケないかも知れないが、神経質さをポップで覆い隠したようなジャンルレスな雰囲気が個人的には結構好みではある。メロディも良い。


Devin Townsend Project“Ki”
アルバム中、最もアンビエント色が濃いナンバー。

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