非思量

今沢カゲロウ(Quagero Imazawa)「Bass Days」(2006)

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※「1997年~2006年の10枚+1」第8回→他のレビューはこちらから

「自らの演奏をその場でサンプリングしてどんどん重ねていく一人多重アンサンブル」スタイルの、時系列的観点で見れば恐らく始祖、あるいは極めて始祖に近い存在と思われるのが日本人ベーシスト、今沢カゲロウである。6弦フレットレスを縦横無尽に駆使して作られる彼のアルバムはこれまでも拙ブログで数枚紹介してきたが、今回紹介するのは通算11作目にしてメジャー・デビュー作となる「Bass Days」。リメイクを含むオリジナル7曲+ジャズのスタンダード4曲(“A Night In Tunisia”“Maiden Voyage”“Autumn Leaves”“Naima”)+スティーヴー・ワンダーのカヴァー1曲(“Don't You Worry 'Bout A Thing”)の計12曲が収録されている。

初めて聴く人はスラップ、2フィンガー、タッピングといった様々な奏法を超高速で繰り出してくるオープナーの“Encyclopedia Of Bass Art”で度肝を抜かれるに違いない。今沢トランス路線の極北とでも呼べそうな曲だが、バカテクの光速速弾きが彼の全てではない。ベースの暖かい響きを活かした“Trefoil”“IL”等のバラードや、パーカッションを従えて高速で演奏される“Autumn Leaves”、ベース・シンセ(469種類の楽器の音色をシミュレートできるらしい)によりメロトロン風サウンドがサイケデリックな彩りを添える“Don't You Worry 'Bout A Thing”など、音楽的バックグラウンドの広さを背景に「誰も聴いた事のないような音楽を作る」「他人の曲ですら強烈なオリジナリティを刻み込む」際立ったセンス、これこそが彼の根幹を成しているものだと思う。録音が良くて聴き易い点もマル。ゲストで数曲ずつ参加しているドラマー(神保彰、Art Hand)も非常に良いプレイを聴かせてくれる。

同じようなことをやれと言われればやれる人はいるだろうが、やったところでモノマネにしかならないためフォロワーの出ようがない、という時点で彼の勝ち。私が初めてライヴを見た時、会場のマスター(G)とその友人(Dr)が今沢とセッションをしたのだが、そのときの「他の人になんて説明したらエエかわからんでしょ?『もうゴツイんよ』としか」というマスターの弁が全てを物語っている。「独創的」という言葉はこの人のためにある。さらにそのオリジナリティを猛烈な練習で獲得した技術で至高の域に高めていて、まあ何と言うか、口アングリですわ。アルバムもそうだが、機会があれば是非ライヴを体験して欲しい。何せ年間200公演ぐらいやってるらしいですから。

2009年になって、今沢はソロ・パフォーマンスだけでなくトリオ編成でのライヴにも取り組み始めている。個人的には「バンド・サウンドの中での今沢カゲロウ」に強い興味がある(ライヴでアマチュア相手のセッションを聴いたことがあるから余計に)ので、できることならバンド編成でのアルバム発売も期待したい。


今沢カゲロウ“Encyclopedia Of Bass Art”

Fight「Into The Pit」(2008)

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Rob Halford(Vo)がJudas Priestを93年に脱退後に結成、2枚のオリジナル・アルバム+1枚の企画モノを残したFight。今回紹介する「Into The Pit」は、その3枚に1st「War Of Words」の全曲再現(プラス“Light Comes Out Of Black”)ライヴ等の映像を収録したDVDをプラスした4枚組のボックス・セットである。

1stのリリースから14年経っているため音源には当然手が加えられており、3枚のCDは全てリマスター、更にオリジナル・アルバム2枚はRoy Zによるリミックスが施されている。オリジナルのミックスは贅肉を極限まで削ぎ落とした「飢えた軽量級ボクサー」とでも形容できそうなソリッドな音だった(特に1stでその傾向が顕著)が、Roy Zのミックスは、ヴォーカルがやや前面に出て、全体的にも立体感が増した音作り。先ほどのたとえになぞらえるなら、ホンの少し肉付きが良くなって階級を1つ上げたような感じ。オリジナルの残り香を漂わせつつもハッキリと変化を読み取れる、なかなかツボを心得た仕事振り。

なお、2nd「A Small Deadly Space」の方はリミックスに留まらず、更なる変更が加えられている。大きいのが曲順の変更。オリジナルのオープニングはスロー・テンポの“I Am Alive”だったのがミッド・テンポの“Beneath The Violence”に、しかもヴォーカルが例のヒステリックなハイトーンにほぼ全編差し替えされたものに置き換えられている。

当時は“I Am Alive”のような「重くて遅い曲」がトレンドの1つだったことや、恐らく1stと異なるイメージを打ち出したかったバンドの意向等もあってのことだろうが、これでアルバムの印象が随分と変わっている。それ以外の曲でもヴォーカルのミックスが大幅に改変されたり、オリジナルでは効果音程度の扱いだった音が前面に引っ張り出されるなどして、Robのミステリアスというか怪しげな面が強化されている。オリジナルの音は、95年当時としてはああなるのもまあ当然と言えば当然なんだが、当時のスタッフが押しなべて凡庸だったという見方もできる。まあ、14年後の視点であれこれ責め立てるのも酷な話しではあるが。

DVDに収録されたライヴでは2曲目の“Nailed To The Gun”で早くも喉が死に掛けてハラハラさせられるがなんとか最後まで持ちこたえている。それにしても野球帽をかぶったシンプルな出で立ちから4文字言葉が出てくるMCや歌詞の内容まで、「メタル・ゴッド」を演じていたPriest時代とは正反対。神ですら時流に乗り遅れまいと必死だったのです。ちなみにこのDVD、リージョンコードが1なので注意。音楽ソフトぐらいリージョンフリーにしとけよ。

私は事あるごとにJudas Priestの作品を最初に聴くなら「Painkiller」からと言っているが、その次がこのFightのボックス・セットでもいいのではないか、という気がする。今の耳で聴けば「Painkiller」の後のPriestのアルバムがコレ(Priestじゃないけど)でもあまり違和感はないと思うし、Halford「Resurrection」にも割と自然に繋がっているので(FightとHalfordの間にあるTWOは飛ばしてもいいと思う)。4枚組にしては結構お求め安い値段なので、未体験の方、いやむしろFightをリアルタイムで聴いてきた皆々様、これを機に再評価などいかがでしょうか。


1st「War Of Words」のオープニングを飾った“Into The Pit”のライヴ(DVDに収録されているものとは別テイク)。Fightでもギター・ソロ中のタコ踊りは健在。

Tiit Kikas「String Theory」(2007)

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エストニア出身のヴァイオリニスト/コンポーザー(ティト・キカスと読むらしい)のソロ・アルバム。ユーロ・ロック・プレスのレビューで興味を持ち、HMV Onlineで購入。

全ての音がヴァイオリンで多重録音された一人芸術とのことだが、通常の擦弦奏法のみならず、まるでギターのように掻き鳴らすなど、普通ヴァイオリンをそう言うふうには扱わないだろう、という手法をかなり取り入れているようで、更に言えば様々な処理を加えられたサウンドも重ねられ、使用された楽器が一種類とは思えないほど多彩な音を出している。

ライナーノーツ(あ、国内盤が出てます)によると、Kikasは地元では映画、ラジオ、テレビの音楽を製作する売れっ子コンポーザーらしいが、「インディペンデントになること」「レコーディングにすべての過激なアイディアを注ぎ込むこと」が彼の目的だそうで、確かにこのアルバムにおいて、その目的は達成されていると言って良い。

民族音楽を下敷きにしたと思しきラディカルな楽曲の合間に、深い闇に閃光が差し込んでくるようなダーク・アンビエント調のナンバー等を差し挟みつつアルバムは進行する。アルバムのハイライトはラストの“Everything Happens For A Reason”。爽やかな朝の目覚めを思わせるポジティヴな曲で、エレクトリック・ヴァイオリンによるまばゆいフレーズの繰り返しが印象的。アルバムの締めくくりに相応しいナンバーである。

音の息遣いは刺激に満ち溢れている(ヒステリックで聴き辛いという意味ではない)が、楽曲自体は「アヴァンギャルドの中庸」(何じゃそりゃ)という感じで、まあ曲にもよるし聴き手の経験値にもよるだろうが、それほど取っ付き辛い印象はない。幻想的なムードを漂わせた視覚的な作品。


2007年6月8日にエストニアで行われたライヴの映像。アルバム未収録の“String Theory”という曲。足元を映し出した映像はないが、足の動きを見るに自らの演奏をその場でサンプリングして重ねていく今沢カゲロウ状態ではないかと推察されるのだが、どうだろう。

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