Nik Bärtsch's Ronin「Stoa」(2006) 

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※「1997年~2006年の10枚+1」第7回→他のレビューはこちらから

スイス出身のピアニスト/コンポーザー、Nik Bärtsch(Bartsch、Baertsch)率いるクインテット、Roninの4th(ライヴ盤含む)。チューリッヒ市からの援助を受けて神戸に滞在していた2003年9月~2004年3月の間に作曲された全5曲が収録されている。バンド名のRoninは日本語の浪人から取られたもので、Bärtsch自身は日本の文化に傾倒しているのだそう(音楽から直接的にそれを感じ取ることは難しいが)。

ピアノ、フェンダー・ローズ+コントラバス、バス・クラリネット+ベース+ドラム+パーカッションという編成からなるインストゥルメンタルの作品だが、ピアノがソロを取って弾きまくるというような展開は一切なく、ミニマルなフレーズの反復を軸にして各楽器が寄り添ったり乖離したりしながら、少しずつ表情を変えていくような感じ。極端な程に構築性の高い音楽を指向している。

こういう風に書くと物凄くストイックなサウンドを想像されるだろうし実際そうなのだが、一見無機質なようでいて実際のところは非常に肉感的な音になっているのが最大の特徴。Bärtschは自身の音楽を「Ritual Groove Music」「禅ファンク」と称しているが、どう聴いてもジャズの匂いがしないうねるベースや、微妙なビートのズレ、或いは終盤でのたたみかけるようなアンサンブルが生み出すグルーヴがたまらなく心地良い。ヘタをするとジャズ/ジャズ・ロックの枠に押し込められそうな音だが、そういうのとはハッキリと一線を画している。

アコースティック楽器がメインの柔らかい音色のおかげもあろうが、複雑かつ個性的な音楽でありながら非常に聴き易い。贅肉がないのに非常に表情豊かで、全然飽きない。Bärtschのキャリアの中で間違いなくマイルストーンとなる傑作。私は、彼らこそが世界一滑らかに9拍子を使いこなす(しかも異なるビートを同時に鳴らしながら)グループだと思うぞ。


現時点での最新作「Holon」(2008年)より“Modul 42”。少しミニマル度低めの、分かり易い音楽性にシフトしているがサウンドの方向性は基本的に同じ。

2009/04/27 Mon. 21:33  edit

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Rush「Retrospective 3」(2009) 

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Dream Theater等に強い影響を与えた初期(「Retrospective 1」)、シンセを大々的に導入した80年代(「Retrospective 2」)に続く、アトランティック移籍後の「Presto」から「Snakes & Arrows」までの「Feedback」(カヴァー集)を除く6枚から選曲して構成されたコンピレーション第3弾。余談だが、ジャケットで掲げられている7作品のジャケ写のうち、「Snakes & Arrows」についてはジャケットではなく、ブックレットの表紙が選ばれている。

カヴァー集である「Feedback」から選ばれたのはオマケのDVDにライヴ・テイクが収録された「The Seeker」のみ。CDの方は「Presto」から2曲、「Roll The Bones」から後述のライヴも含めて4曲、「Counterparts」から3曲、「Test For Echo」から1曲、「Vapor Trails」から2曲、「Snakes & Arrows」から2曲の計14曲となっている。

選曲については、個人的にはおおよそ妥当なチョイスだと思っている。自分で70分前後にまとめるという縛りをかけて好みの曲を集めても、割かしこれに近い選曲になりそうなので。“Show Don't Tell”“War Paint”“Cold Fire”“Everyday Glory”“Totem”“Resist”“Freeze”“Good News First”などなど、他にも入れて欲しかった曲は色々あるが、全部詰め込んだら2枚組になりそうだし。CDからは漏れたもののオマケのDVDにPV/ライヴ・テイクが収録された曲もあるので、主要な曲はあらかた網羅できているハズ。

目玉となるのは2点。まずは「Roll The Bones」に収録されている“Ghost Of A Chance”のライヴ・ヴァージョンで、「Snakes & Arrows」発表後のツアーで演奏された初出音源。2つ目は「Vapor Trails」収録曲(“One Little Victory”“Earthshine”)のリミックス・ヴァージョン。「Vapor~」アルバムの音質面については、欧米ではかなりの議論がなされていたよう(このサイトの「☆Cracking &Poping」の項を参照のこと)で、なるほど今回のリミックスでは、楽器の奏でるフレーズ1つ1つがかなりハッキリと聴き取れるようになっている。

だからと言って「良くなったか」と問われれば必ずしもYesと言い切れないのが難しいというか面白いところ。昔やってたサイトでこのアルバムのことを「回春アルバム」と表現したことがあるのだが、「Test For Echo」の後に妻と愛娘を立て続けに失い、その後、現在の妻と出会ったNeil Peart(Dr)の境遇も込みで「バンドの復活」を印象付けるものとして、あの猛々しい音は正しかったと思う(ミキシングにPeartは関わってないけど)。というワケで、まあ好みは人それぞれだが“One Little Victory”は新ミックスの方に、新しい愛の始まりを歌う“Earthshine”(この曲、死ぬほど好き)はオリジナルに軍配を上げたい。

私自身は、74年にデビューしてから「Permanent Waves」「Moving Pictures」までの、プログレ色が濃く、一般的に人気が高い(Wikipediaにこの頃までの記載しかないことからもそれは窺える)とされる初期の作品にはあまり興味がなくて(「Moving Pictures」は一時期物凄く聴きましたけど)、その後の「Signals」~「Hold Your Fire」でのスムーズなポップ性を極めた音楽性の方が好みだし、「Presto」「Roll The Bones」を経て、グランジに感化されてヘヴィになりつつもポジティヴな精神やメロディを堅持した90年代以降の音楽性がもっと好みだ。というワケでRushを知らない方には真っ先にこのコンピを聴いていただきたい。…のだが、ファン以外に買う人っているのか。

2009/04/23 Thu. 21:20  edit

Category: CD/DVDレビュー:R

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Queensrÿche(Queensryche)「American Soldier」(2009) 

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シアトル出身の(一応)プログレ・ハード・バンドの、スタジオ盤としては通算12作目。プロデューサーは「Operation:Mindcrime II」と同じくJason Slater(ただし今作では「with Kelly Gray」とある)。Geoff Tate(Vo)がヴェトナム、コソボ、ソマリア、イラクといった戦地に赴いた米軍の帰還兵と実際に会い、行ったインタビューを下敷きとして製作されたアルバムである。

そういった経緯もあってGeoff色が非常に濃く(ちなみに12曲中10曲がGeoff&Jason SlaterもしくはKelly Grayの共作)、全曲がスロー~ミッド・テンポで占められており、わかりやすい高揚感やエキサイトメントは期待すべくもない。そもそも歌詞の中身が、帰還兵が置かれている過酷な現状を彼らの言葉をそのまま用いて訴える、という極めて重たいものになっており「速い曲なんて書きようがねえだろ」といったところだろうか。一聴した限りではどうしようもなく地味な印象を受ける。

ただ、サウンド面においてはかつての緊張感や緻密さが戻ってきている印象で、かつて彼らのサウンドを特徴付けていたハーモニーやツイン・リードも随所で投入されている。メロディの質が「Q2K」以降の路線から大きく変わったわけではないが、随分と伸びやかさが感じられるようになっていて、ここ10年ほどの(流行に合わせた)キメの粗いカラーが彼らの持ち味をスポイルしまくってたことを改めて感じさせる。アルバムを印象付けるキラー・チューンこそないものの、“At 30,000 Feet”“The Killer”“If I Were King”など、聴かせる曲は多い。やはり彼らには重厚でドラマティックな音が似合う。

ということで、評価としては「思っていたよりずっといい」と言ったところ。個人的には好みの作風だし、少なくとも「Q2K」以降の作品では一番いい。「Rage For Order」「Promised Land」の両方を愛せるなら割合スッと馴染める、かも知れない。イヤホンやヘッドホンを装着しての鑑賞を推奨。

2009/04/19 Sun. 23:41  edit

Category: CD/DVDレビュー:Q

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KTU「Quiver」(2009) 

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第6期King Crimsonのリズム隊、Trey Gunn(Warr Guitar)+Pat Mastelotto(Dr,Noises)のユニットTU(トゥー)と、Samuli Kosminen(Accordion Samples,Voice Samples)+Kimmo Pohjonen(Accordion,Voice)からなるフィンランドのデュオ・ユニットKlusterが合体して結成されたKTUの2nd。2005年に発表された1st「8 Armed Monkey」はライヴ盤だったため、これが初のスタジオ・レコーディングによるアルバムとなる。

1stは大まかな構成を決めた上でのインプロヴィゼーション(即興演奏)だったそうだが、2ndでは作曲の比重が増しているとのこと。やはりリズム隊がCrimsonだからか、ダーク&ヘヴィかつ神秘性を感じさせる音はヌオヴォ・メタルCrimsonの影響を感じさせるが、その流れの中でアコーディオンがメインを張っているというのがとにかく奇妙、そしてカッコいい。

今回はアコーディオンの音をサンプリングしてMIDI再生した音とアコースティックのアコーディオンを混ぜて使用している(ライナーより)のだが、そのおかげか素朴さよりもシャープさが際立つサウンドになっており、先鋭的な音楽性に非常にマッチしている。時に激しくうねり、時に切れ味鋭いソロを弾き出すGunnのWarr Guitarとの相性も抜群。

ゆらめくような映像感覚を持つ小曲“Fragile Sun”~Crimsonの“Level Five”を彷彿させるヘヴィな“Kataklism”のオープニング、Pohjonenの不気味な声をフィーチュアした“Quiver”、Warr Guitarの軽やかなタッピングを軸とした“Jacaranda”、闇の中に吸い込まれてそのまま戻って来れなさそうな雰囲気の“Snow Reader”など、聴きどころ満載、充実の1枚。

このCDが届いた時にジャケットの色使いを見て直感的に「これは傑作だ」という、確信に近い期待を抱いたのだが、果たして1stの攻撃性にジャケットで使用されたターコイズのような奥行き、広がりが加えられた力作に仕上がった。2004年の初ライヴから2ndまでかなり時間がかかったのは各自が多忙なゆえだろうが、それでも2nd発表にこぎつけたのはライヴでメンバーにもかなりの手応えがあったからなのだろう。Kosminenが脱退している(一部、彼が作った音が加えられている)がマイナスの影響はなし。Mastelotto+Gunnの存在感という意味でも、このリズム隊が作り出した音楽としては最高傑作なのではないかと思う。


「Quiver」収録曲が見つからなかったので、1st「8 Armed Monkey」から“Absinthe”。Pohjonenの特異性がよくわかる映像。

2009/04/06 Mon. 00:23  edit

Category: CD/DVDレビュー:K

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