非思量

今沢カゲロウ「Bassist,Electric」(2008)

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日本人ベーシスト、今沢カゲロウの12枚目となるアルバム。初のメジャー配給となった前作「Bass Days」同様、キングレコードから「電気低音シリーズ」としてのリリースとなる。

彼の代名詞とでも言えそうな、人力サンプリングのリズム・トラック+超高速スラップ&フィンガリング&タッピングを駆使したダンサブル/トランシーなナンバーは2曲目の“Bassist,Electric #01”のみに留め、バラード等一部の曲を除き、前作にも参加したArt Hand(Dr)を全面的に起用、ロック色を強調した作風になっている。

それに伴い、前作ではシャープだったサウンドも、ややラフな感触の、膨らみのあるサウンドになっているのだが、「ギタリストやキーボーディストがいない」という点を差し引いても、ここまで生々しい迫力を持ったベース・サウンドにはなかなかお目にかかれないのではないだろうか。

あくまでロック・テイストに主眼を置きつつも、ポップなムードのVo入り(ベースとユニゾンで、人声を楽器の一つとして使用している感じではあるが)ナンバーや、普通こういうアレンジはせんだろ、という程の変貌を遂げているジャズ・スタンダードのカヴァー、そしてお得意のバラードまで取り揃えており、最後まで飽きさせない。12作目にしてなお、引き出しの多さや意外性を感じさせるのは本当に大したものだと思う。私が住んでいる徳島には毎年末にやってくるのだが、新曲がソロ・パフォーマンスではどのようにアレンジされているのか、今から楽しみである。

ところでこの作品、私はHMV Japanのサイトを通じて購入したのだが、King Crimsonの“The Talking Drum”のカヴァーを収録したボーナスCDがついてきた。このCD、店によってついてたりついてなかったりなようなので注意が必要である。中身は、メロトロンが不穏な空気を撒き散らすライヴ・ヴァージョンを下敷きにして、原曲を崩さない範囲で暴れている感じ。Robert Frippのギター・パートがもっとキンキンした音だと、更にらしくなっただろう。

Judas Priest「Nostradamus」(2008)

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「Angel Of Retribution」(2005)に続く、Rob Halford(Vo)復帰第2弾となる通算16枚目。今回はノストラダムスの生涯を描いた、バンド初のコンセプト・アルバムというのがウリになっている。2枚組というのも彼らのオリジナル・アルバムでは初めてのことだ。

近年における欧州でのゴシック・メタル・ブームに誘発されたのか大々的にオーケストラを導入していたりして、50を過ぎてなお彼らの節操のなさが健在なのが笑える。前作「Angel~」が「過去作の焼き直し感」が強く(アレはアレで「ヴェテランの再結成ブーム」にキッチリ乗っかっていてある意味凄いと思わされたものだが)、さすがに創作面では枯れてきたかな…と思っていたがなんのなんの。コイツらまだまだ続ける気満々だ。

スタジオ録音ですら衰えを隠せなくなっているRobのハイトーン・スクリームは最小限に留められているが、前作のオマケDVDで聴ける“Diamonds&Rust”を聴けばわかるように、今のRobの長所は例のハイトーンではなく、元々持っていた特異なキャラが年齢を重ねることで誰も想像しない方向へ熟成された、やたらと豊穣な中音域だ。今回はその中音域を活かすことに曲作りの焦点が当てられており、その中音域を多用したムリのない歌唱を聴かせるミッド/スロー・テンポの楽曲が大半を占めている。タイトル・トラックのような速い曲もあるにはあるが、率直に言って、この作品にヘヴィ・メタルとしてのエキサイトメントは望むべくもない。

アルバムのコンセプト/ヴォリュームのみならず、そういった観点からも、コブシを振り上げてウォー!というのではなく、正面から静かに、じっくり向き合うのがこのアルバムに対峙する姿勢としては正しかろう。“Blood Red Skies”のような重厚かつ荘厳な曲調が好きなら楽しめるのではないかな。そらまあ最初に聴くなら断然「Painkiller」を薦めるけど、これはこれで私は好きだよ。

Talisma「Quelque Part」(2008)

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カナダ(ケベック州)産バンドの3rd。2ndは未聴だが、正式メンバーとしてクレジットされている人数は1stの3人から6人へと増加している。

Robert Frippの影響を受けたと思しきギタリストとタッピングを多用するベーシストをフィーチュアしたトリオ編成に分厚いメロトロンやシンセを絡めてブンスカブンスカと突き進むインスト曲を軸に据えつつ、しっとりした女性Voをフィーチュアしたり、アコギを前面に出して叙情的かつポップな音世界を描いてみたりと、ヘヴィなだけでなく、どこか奇天烈、かつ極端にカラフルだった1stの世界観をさらに押し広げている。

YouTubeのライヴ演奏を見れば分かるようにKing Crimsonからの影響が強いのだが、ベースのタッピングがTony Levinのソロ作を彷彿させる曲があったり、モロにCrimsonのフレーズが出てきたかと思えば元ネタが“Vrooom”(「Thrak」収録Ver.)のイントロで流れるメロトロンだったり、ベタではなく捻りが効いているところに好感が持てる。1stと比較して楽曲の完成度も増したため、その引き出しの多さ/テクニシャンぶり/変態さんっぷりを存分に味わうことが出来るようになったのもプラス。ジャズ・ロック/ヘヴィ・シンフォあたりが守備範囲で、ちょっと脳みそが沸いてるんじゃないコイツラ?みたいなの(て、どんなんだ)が好きな人にプッシュしたい快作。



1st「Corpus」収録の“L'Empale”。第5期King Crimsonの影響下にあるヘヴィなインスト。



同じく1stより“Freezone”。アルバムでは女性スキャットをフィーチュアして奇妙なムードに仕上がっているが、インスト・オンリーのライヴを聴くとジャズ・ロック度高し。ベーシストは終始タッピングでプレイ。

Tiles「Fly Paper」(2008)

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デトロイト出身4人組の5th。彼らの作品を聴くのは初めて。裏ジャケには8曲がクレジットされているが実際は9曲入り。ジャケット等のデザインはHugh Syme(キーボーディスト等で一部の楽曲にも参加)、プロデューサーはTerry Brown、“Sacred&Mundane”ではAlex Lifesonがギターを弾き…と、Rush人脈の手厚いサポートを受けてのリリースとなる。

なるほどVoのジェントルでありながら素っ頓狂な声質も含めRushの影がチラつくが、恐らくそう感じさせる最大の要因はTerry Brownのサウンド・メイクであろう。Voの声質云々書いたが超音波ハイトーンを炸裂させる場面はほとんどなく、むしろ中音域を多用した歌唱。楽曲もコンパクトで、8分を越える“Hide&Seek”後半のインスト・パートもバカテクが炸裂するワケではなく、ジャム風のギター・ソロが挿入されている。プログレ・ハードと呼んでもまあ差し支えないが、オルタナとかグランジとか呼ばれた90年代米ハード・ロックからの影響が強いように思えた。

ブレイクするにはもう一押し欲しい気もするが、親しみやすいメロディを備えた渋好みの作品だと思う。



Tiles“Sacred&Mundane”(Alexのギター・ソロ等を省略したエディットVer.)

Asia「Phoenix」(2008)

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-もう、僕たちはThe Venturesを笑えない-

て、別にThe Venturesに対して思うところは何一つないのだが、これを聴いて喜んでる私のメンタリティというのは、毎年2回やってくるThe Venturesのテケテケに喜んでる「老若男女(除く若)」とあんまし変わらんよな、きっと。10ン年前にAsiaの1stを聴いてもピンとこなかったのに、まさか最新作「Phoenix」にはまりこんで「自身のルーツは'80年代である」という事実と向き合わされることになろうとは。

Asia(というかJohn Wetton)はそれほど好きというワケでもないので今回も完全スルーの構えだったのだが、随所で良い評判を聞くし、近所のレコード屋を覗いてみれば発売後1ヶ月経ってもまだ結構目立つところに置かれていて物凄く気になったので「いっちょ騙されてみるか」と思って購入してみたところ、John Wettonの歌唱/メロディは過去私が聴いた彼関連の作品(ほんの10枚程度だが…)を通しても随一の充実ぶりを見せており、騙されたといっても予想がいい方向に裏切られたカタチに。

ペラッペラなシンセをはじめとして、'80年代の空気をそのまま真空パックしたような激ダサな場面も散見されるが、彼らの影響を受けたどこの馬の骨ともつかない連中ではなく、正真正銘のオリジナルが何の臆面もなく堂々とやっているのだし、そもそも今こういうことをやって許されるのはAsiaだけだろうから(他の人がやったらそれこそ悪趣味な冗談にしか聴こえないと思う)、こちらも笑って受け入れるしかなかろうて。でも中途半端に時流におもねらないその姿勢には、冗談抜きで「凄い」の一言しかない。1曲目の冒頭でSteve Howeのギターがジャララーンと鳴った瞬間、25年前にトリップする感覚を味わえるぞ。

ポジティヴなエネルギーが溢れる楽曲群から垣間見えるのは「オマエら、こういうのが聴きたいんだろ?存分に味わうが良いぞ!」とでも言いたげな、前向きな達観。25年前には希薄だったプログレ色を微かに強化しつつもAsia以外の何者でもない作品に仕上がっており「こういうの」を求めていた人たちの期待にほぼ100%応えている、と言い切っていいだろう。きっかけが金だろうが何だろうが、これだけのものを作ることができたのだから、全てが正当化される。正直、少し感動した。

ただし、本編ラスト"An Extraordinary Life"のイントロが小林明子"恋に落ちて"のサビメロに酷似している点だけは突っ込んでおきたい。日本人にとってはここが笑いどころです。

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