非思量

Fight「A Small Deadly Space」(1995)

asmalldeadlyspace.jpg


Judas Priestのヴォーカリスト、Rob HalfordがPriestを飛び出して結成、90年代前半に2枚(+企画盤1枚)の作品を残したFightのラスト・アルバム。米アマゾンで6ドルぐらいで投げ売りされていたのを見つけ、ようやくゲット。

ヘヴィなリフを剛直球で叩きつけてくるギター・ソロ無し&ミッド・テンポがメインの作風は当時の流行に添ったもので、なんだかんだ言っても「Painkiller」の次のPriestの作品がこれでもあんまし違和感なさそうだった1stからの様変わりっぷりが良くなかったのか、当時のB!のレビューを読み返しても芳しい評価は得られていないが、単調一辺倒ではないけどヒネリが効いているというのともちょっと違う、若いメンバーの感性やセンスだけで弾き出されたようなリフの数々を従えて大御所がシンプルかつキャッチーなメロディを歌い上げていて、決して遅くてタルい作品ではない。

このアルバムのセールスが振るわずにバンドは活動休止してしまうワケだが、Robのヴォーカルも実に力強く現役感バリバリ、おおむね中低音域でキメの粗い野太い声を多用しつつ例のハイトーン・スクリームも随所で炸裂。当事者にしてみれば、この作品は相当な野心作だったのではないかな、と思いをめぐらさずにはいられない気合が感じられる。素でつまらん曲もあるけどそれは1stとて同じこと。今の耳で虚心坦懐に聴けば、聴き所は少なくないはず。

Agua De Annique「Air」(2007)

air.jpg


The Gatheringの看板Vo、Annek van Giersbergenが2007年夏のThe Gathering脱退後に結成した新バンドの1st。発売が同年10月だから、新バンド結成自体は脱退発表のかなり前から準備されていたものと推察される。いきなり本題からずれるがジャケ写のスチュワーデス姿はAnnek本人。彼女、The Gatheringの昔の写真を見てもそうなのだが、写真写りがあまりよろしくない。The Gathering在籍時のラスト作となったDVD「A Noise Severe」を見ればわかるが、動く彼女は美形とは言えないまでもチャーミングなお方である。

さて本題であるところの作品の中身について。The Gathering在籍時のラスト・スタジオ作「Home」以前の作品が未聴なので連続性という観点では語れないが、どことなくアンニュイなムードを漂わせつつもところどころに小さな起伏が用意されている、というアルバムのキャラクターは「Home」とそう大きく変わるところはない。

アルバム全体の色彩は「Air」のほうが圧倒的にカラフルで、ノイジーなギターが前面に出ている曲もある。ただ、個々の楽曲の出来は悪くないのだが、多様なカラーの楽曲が逆にバンドとしてのアイデンティティが未だ模索中であることを感じさせ、時にささやくように優しく歌い、時にヒステリックなファルセットを響かせるAnnekの歌唱もどことなく手探り感があり、The Gathering時代の圧倒的な説得力を再現するには至っていないように思える。

まあ、そのあたりは作品を重ねていくうちに解消されていくだろうから、今後に期待したい。個人的なベスト・トラックは7曲目の"Ice Water"。6拍子のゆったりした曲調で、青空を感じさせる広がりのあるメロディと力強さと優しさを併せ持った母性を感じさせるヴォーカルが印象的。改めて、表現力のあるいいヴォーカリストだな、と思った。

The Gathering「Home」(2006)

home.jpg


女性Voをフィーチュアしたゴシック・メタルのオリジネイターとして名高い(?)オランダ産バンド、The Gatheringの8th。

このバンド、7,8年ほど前に当時の知人から熱心に勧められていたにも関わらずなんだかんだで今まで放置していたのだが、先日大阪に行った際に茶屋町のタワレコをあてもなくうろうろしていたところこのバンドの名前が目に飛び込んできたので、置いてあった「Mandylion」(1995)「Nighttime Birds」(1997)「Home」の3枚を鷲掴みにしてレジへ直行。帰りの車中で聴き、家に戻ってからもずーっと聴いていた。要はハマッてしまったのだが、ここでは現時点での最新スタジオ作である「Home」を取りあげることにする。

派手さのないバッキングの上を印象的なメロディが舞う、という作風は3枚とも共通しているが、一本調子な中にも強い神秘性を感じさせる、歌メロの美しさがただごとではない「Mandylion」、楽曲のヴァリエーションを拡大して大衆性を増した「Nighttime Birds」と同じバンドとは思えないほどに、このバンドは約10年の間で大きな変貌を遂げている。ツインギター&キーボードを携えたヘヴィで大仰なゴシック・サウンドは装飾をそぎ落としたトリップ・ポップに、メロディが持つ力強い高揚感は内省的な閉塞感へと、その方向性を変えている。まあ、ジャケットからしてどう見ても「メタル」って雰囲気じゃないわな。

「Mandylion」にリアルタイムで魅せられたファンはさぞかし大変であろうが、アルバム1枚通して聴かせる構成力やアレンジなど、スタイルを変えながらも確かな成長を感じさせる部分はある。そしてAnnek van Giersbergenのヴォーカル、これが実に素晴らしい。クリアな声質で上から下まで力強く歌い上げ、表現力も申し分なし。とりあえずメタル系のリスナーで未聴の方には「Mandylion」「Nighttime Birds」をオススメしておく(この2枚も実に強力)が、Radioheadに端を発する今風の音がダメでなければ、このアルバムも聴いてみる価値はある。掴みは弱いもののじっくり浸れる作風は私自身好きだし、何よりAnnekのヴォーカルは「彼女が歌っている限りはこのバンドを追いかけようという気になる」ぐらいの存在感だ。

かようにこのバンドの魅力というのは彼女の才能に負うところが大きいと言えるのだが、それだけに昨年彼女がバンドを脱退したのは大きな痛手。正味な話、残されたメンバーはこれからどうするつもりなんだろ。

Newest