非思量

Phew「View」

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Aunt Sallyというバンドでデビューした日本の女性シンガー、Phew(フュー)の2ndソロ。87年の作品。

彼女がロック/ポップスの文脈上、どういう立ち位置なのかイマイチわからない(私はプログレ関連の文献で彼女のことを知ったが、Aunt Sallyについては「日本最初期のパンクバンド」という記述もある)のだが、その原因は彼女の歌唱。一度聴けばわかる。彼女に対抗できるのはかのFlorence Foster Jenkins女史ぐらいしかいない、というぐらいの不安定な音程。スタジオ録音でこれだけ揺れまくる歌ってどうよ?と思わずにはいられない(ボートラのライヴ音源を聴くとさらに物凄いことになっているのがわかる)。

ただ、(こういう形でフォローするのは自らの感性の豊かさをひけらかしているようで実は嫌なのだが)彼女の声からは単なる「歌」を越えた何かが聴き手に突き刺さってくるものを感じる。音程に反して芯の部分は恐ろしく強いというか。友人に聴かせたところ「演劇/芝居的」という感想を得たのだが、有機的な言葉を駆使しながらどこか無機質な歌詞も併せて、いかなる意味においても「衝撃的」であることは保障できる。

Canのメンバーと録音された1st「Phew」(81年)が有名だが、「Phew」でのひたすらシンプルで硬質、かつ陰鬱な世界から一変、春の陽光を思わせる開放的なロック・サウンドを従えた「歌モノ」の要素が強い一枚になっている。でもまあ、バックがどんな音でもヴォーカルが全部持っていきます。強烈。

Glenn Tipton「Baptism Of Fire」

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「昔、何となく聴きそびれたCDを買ってみる」ウィーク第2弾。第3弾があるかどうかは未定。もう1枚買ってもいいかな、という作品を思い出したが酒を飲んでクルマを運転できない状況なので(レコード屋が少し遠い)。

Judas Priestのギタリストが97年にリリースしたソロ。Cozy Powell(Dr)やJohn Entwistle(B)、Don Airey(Key)とレコーディングした「Edge Of The World」が10年以上越しで発表されたのに合わせて昨年再発されたものを購入。Ugly Kid JoeやSuicidal Tendenciesといった若いバンドのリズム隊を呼び寄せてレコーディングされた(ということは、現MetallicaのRobert Trujilloが参加しているワケです)楽曲が中心のこのアルバム、発売当初のB!のレビューでは山崎智之氏ぐらいしか褒めている人間がいなかったような気がする。よく覚えていないけど。

非難の的になっていたのはおおよそ「モダン・ヘヴィネスになびいたこと」及び「Glennのヴォーカル」の二点。前者については、今となっては「何でこの程度でそんなに皆ショックを受けたの?」と、ただただ10年という歳月の長さに思いを馳せてしまうばかりで、確かにTim“Ripper”Owens期Priestのプロトタイプとでも呼べそうなザクザクしたギターの曲が多いのは事実だが、出てくる音がことごとくソッチ系というワケでもない(そもそも、Black Sabbath的ドゥーム・テイストは皆無)し、前出の「Edge Of The World」との互換性も意外と高い(「Edge~」の古典風味と言うのはDon Aireyのキーボードに負うところが多いような気がする…)。

ヴォーカルについてはあまり積極的に擁護はできないが、Dave Mustaneがアリならこれだってアリでしょう(生で聴いてみたい!という説得力はないが非常にユニークな声を有している、という意味で)。「Edge~」で既に耳にしていて慣れている、ということもあろうが、さほど違和感は感じないし、ハマればハマる声だと思う。アルバム中最もアグレッシヴな“Kill Or be Killed”ではところどころMustaneっぽくなるが、全体的にはTim Owens(Timの方が遥かに上手いが)を彷彿させる部分も多々有り。

「Edge~」のセッションで録音されたものがベースになっていると思われる曲も収録されており、中でも“Baptism Of Fire”は、Cozy PowellとDon AireyにBilly Sheehan(B)が加わった超強力編成によるインストで、各人の記名性高すぎの演奏に圧倒される。この4人でバンド組んだら1枚で空中分解しそうよね、というぐらいアクの強いプレイが繰り広げられている。この曲に限らず、ギターは冴え渡っております。この人のギターてなんかハッタリ臭いけど死ぬほどカッコいい瞬間があって、このアルバムではそのカッコいいところが凝縮されているように思う。

「Painkiller」の後にPriestが解散して、Glennが本格的にソロ活動をしていたら色々面白い作品が出てきてたかもなあ、と、思わず歴史のifに思いを巡らせたくなる力作。でも結局売れなくてPriestを再結成していただろうな。

TNT「Firefly」

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欲しい新譜がないので「昔、何となく聴きそびれたCDを買ってみる」ウイーク開催。第1弾はTNTが97年に発表した再結成作「Firefly」。このアルバムについては「当時持っていたミニコンポで音飛びしまくったので怒りのあまり一回もマトモに聴かないうちにCDを叩き割ってしまった」という忌まわしい記憶がある。悪かったのはコンポのピックアップなんだがなあ。今思い返しても酷いことをしたと思う。

TNT、実は今まで一度もマトモに聴いたことがないのだが、何で97年にこのアルバムを買おうという気になったのだろう?思い出せない。「北欧的な爽快感溢れるサウンド」(Wikipediaより)とは180度異なる2曲目までのヘヴィネスだとか、3曲目以降の乾いたサウンドだとか、当時のB!ではどうやっても褒められることはなかったであろう音楽性。このアルバムが出た頃が一番B!を熱心に読んでいたころで、レビューを読んでこのアルバムを購入する、というのは考えにくいんだが…褒めてたんだろうか(レビューの内容はさっぱり覚えていないが、確かレビューページの巻頭にあったのは覚えている)?

まあそんなことはどうでも良いが、相当奇抜なアルバムですな、コレ。ワールド・ミュージックの流行に一回り遅れて乗っかったような“Only The Thief(Whistles At Night)”とか、ハード・ロックの看板を掲げているバンドの音とは到底思えないいかがわしさとムーディさが同居する“Moonflower”などはその最たるもの。あと、ギタリストのセンスも相当ヘン。10年前だと1曲目と2曲目のヘヴィネス以外は全部耳に残らなかったかも知れないので、10年寝かせておいて丁度良かったのかも知れん。

ヘヴィな前半、メロディックな中盤、スキツォイドな後半でカラーがガラッと変わるが、カラッとしたサウンドとシンプルながら心に残る豊かなメロディを持つ3~6曲目がアルバムのハイライト、かな?特に4曲目の“Daisy Jayne”は良い。TNTという冠がかなり邪魔をしていると思うが、今なら「ちょっとヘンなハード・ロック」として違和感なく受け入れられる素地がある作品である。こういうの、結構好きですよ私。

聖飢魔II「恐怖のレストラン」

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デビュー当時の悪魔性を前面に押し出した世界への回帰を目指した92年発表の7th。

・・・ではあるが、初期の楽曲が、聖飢魔IIの創始者であるダミアン浜田独特の、おどろおどろしくもどこか馬鹿馬鹿しさというかユーモラスな雰囲気を持つ「よくできたホラー映画」的な世界だったのに対して、「恐怖のレストラン」は笑いの要素を排除したスプラッタ物(見たことないけど)の趣き。音楽的にも然りで、オーソドックスなヘヴィ・メタルを骨格としつつもズッシリとした質感を纏っており、ハードコアへの接近すら感じさせる曲もある。まがりなりにもオリコン1位を取ったバンドであるにも関わらず、相当トンがった、ゴリッゴリのヘヴィ・サウンドになっている。さすがに最初は違和感を覚えたが、今では一番好きなアルバム。

「有害」のレビューで「聖飢魔IIは90年代前半が音楽的ピーク」と書いたが、「恐怖のレストラン」におけるデーモン小暮(Vo)の歌唱は壮絶の一言。普段のしゃべりの時のような潰れた感じの声やクリアなハイトーンからRob Halfordばりの超絶ハイトーン、さらに“ギロチン男爵の謎の愛人”における別人のような濁った野太い声まで、まさに七色の声色。ここまでできる日本人(あ、悪魔か)はなかなかいないと思うよ(閣下自身も今は出来ないのではないかな)。

しかしまあ、セールス的に頂点を極めた次のアルバムのテーマが「性欲」で、その次がこんなスプラッタな内容…。自分たちに正直と言えばまあそうだが、深く考えずに前例踏襲で行けばもっと売れたかも知れないのに、つくづく不器用な人(あ、悪魔か)たちだったのだなあ、と思う。シングル切った曲が6分を越える長尺モノ(アルバムではさらにエクスパンドされて9分超)だし。まあ、99年までそれなりのセールスを維持できたのは、過去の再生産に安住しないその姿勢に負う所が大きかったのもまた否定できないことではあるが。


“鬼”

聖飢魔II「有害」

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8月に入って全然CDを買っていないので回顧モードに。そのうち書こうと思っていた聖飢魔IIの登板です。

この「有害」はオリコンチャートで1位を獲得したベスト盤「Worst」の後、90年に発表された6th。このアルバムに収録されている“嵐の予感”がCMで流れているのを聴いて購入した「聖飢魔IIはじめの一歩」であり「ヘヴィ・メタルはじめの一歩」であるだけに、個人的に非常に思い入れの強い作品である。

その“嵐の予感”は、デビューして5年経ち、バンドのいいことも良くないことも見えてきた段階でデーモン小暮閣下(Vo)が皆に対して思っていたことを歌詞にした曲だそうで、それだけに節目節目では必ず演奏されている重要な曲である。不安定感をあおるシンセ&リリカルなアコギに閣下の澄んだトーン(このクリスタルな感触は他のどの曲でも聴けない)のヴォーカルと、中間パートでの変拍子の嵐+激烈なギター・ソロの対比は強烈の一言。本格的に腰を据えて音楽と対峙するようになって20年近くになるが、未だに生涯ベスト・チューンのトップ3に入る素晴らしいバラードだ。

ちなみに、この曲と続く“Thunder Storm”以外のアルバム収録曲全体を貫いているコンセプトは「性欲」だったりする。直接的な表現も多いため好き嫌いが割りとハッキリと分かれるアルバムだが、女に溺れて破滅していく男を描いた重厚なスロー・ナンバー“Rosa”、花の命の短さを破滅主義的なリリカルさで描いた疾走曲“ヒロイン・シンドローム”など、単一のコンセプトのもと、多彩な楽曲を骨太なサウンドで聴かせる優れた作品だと思う。

土橋安騎夫をプロデューサーに迎えて製作された5th「The Outer Mission」とは世界観もサウンドの方向性も異なるが、アレを通過したからこそ達することができた音世界であるとも言える。一部の曲にはホーンまで入っているし、初期の英国メタル風味からはエラい遠いところへ来てしまっているが、閣下の歌唱やバックの演奏などを総合的に見れば、セールスが下降線に入ったこの時期(90年代前半)がピークだと断言しますよ私は。


“ヒロイン・シンドローム”

James Blackshaw「The Cloud Of Unknowing」

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イギリス出身の若きギタリストのソロアルバム。過去にも複数のレーベルから数枚のアルバムを発表しているようだ。

自身の弾く12弦ギターを中心に据え(ていうかほとんどそれだけ)、繊細で幻想的な音世界を創造しておるワケですが、なんかもうね、英国以外からは絶対出てこないよなこんな音、という。知らず知らずのうちに緑深い森の中に迷い込んでしまうとそこには小さな妖精さんが…みたいな風景が幻視できますよこのアルバムを聴いていると。

35年前にこのアルバムが名もないレーベルからひっそり出されていたとしたら、21世紀に発掘されて(一部プログレッシャーの間で)大騒ぎになっていたんだろうなー、という感じの作品。アルバムの構成やプレイも緩急や強弱がよく考えられていて、12弦ギターの美しい音色にひたすら浸れるあっという間の42分。かなりいいぞ、コレ。

曲ごとにギターのチューニングを記していたりしてトンデもなくオタク的、というか絶対オタクだコイツ。

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