非思量

Nik Bartsch's Ronin「Randori」

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昨年、ECMからリリースされた「Stoa」が注目を浴びたNik Bartsch's Roninの1stアルバム。2002年発表。リーダーのNik Batschは親日家だそうで、Roninは「浪人」、Randoriは柔道の稽古法の一つである「乱取り」から採られたもの。

「Stoa」と比べると、まだいくらか楽曲がシンプルなものが多い。また、Modul 8_9はI~IIIの3部構成、30分の大作となっている。この後の「Live」やNikのピアノ・ソロ「Hishiryo」ではコンパクトになって収録されており、同じタイトルでも楽曲の構造がどんどん変化するさまを確認することが出来る。

30分と言っても、別に大層なコンセプトを掲げた組曲などではなく(そういった音以外からのイメージが聴き手に及ぶのを避けているからなのか、タイトルは総て「Modul ○○」《○○はごく一部の例外を除いて数字が入る》となっているし)、ミニマルなフレーズを機軸に、パーカッション/ベース/ピアノ(或いはフェンダー・ローズ)が一体になったりならなかったりしながら表情を少しずつ、静かに変えながら曲が進んでいくスタイルは他の彼の作品と同様。

あくまで静謐な世界の中で、思わず腰が動き出すグルーヴィーなリズムが顔を出すのが彼らの個性であり、その個性は1枚目にして既に確立されている。曲が(「Stoa」と比較して、だが)シンプルな分、そのファンキーな要素がより強く現れている、と言えるかも知れない。

Megadeth「United Abomination」

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ジャケ/内ジャケのイラストがナイス過ぎる2年半ぶりの11th。

下のエントリで「何じゃコリャ」と書いたが、ホント、最初の数回は聴きながらどうしたものかと思った。Dave Mustaine曰く「原点回帰した作品」だそうだが、ここまで色濃く80年代の空気を運んで来なくても。

元々、90年代以降の音楽を全くと言っていいほど取り込んでいない(それがバンドとしての矜持だったのかも知れないし、単にDave Mustaineがそれほど器用でない、からかも知れない)が、1曲目の冒頭の「もうすぐ激しいのが来るぜ?」みたいなギターとか、2曲目のピロピロした音でのリフ(私、これがダメなんですわー)なんぞからにじみ出る80sテイストには「こういうのはB級バンドに任せておけばいいのに…」という失望感で一杯。あと、前にも書いたがタイトル・トラックの冒頭部分は“蝋人形の館”みたいで笑ってしまう(ま、聖飢魔IIのファンだけニヤニヤしていればいいことですが)。

“À Tout Le Monde”の再録ヴァージョンからは結構持ち直してきて、Mustaineが一気呵成にまくしたて、激しいリズム・チェンジを見せる“Amerikhastan”、ダーティな歌声や高速ギター・ソロのパートが魅力的な“You're Dead”などは悪くないと思うのだが、「Risk」大好きな歌モノMegadeth愛好家のヘタレな私にとっては「ほとんど40点だけどいくつかある90点の曲がクール!」みたいな出来だった「The System Has Failed」と比べると楽曲面のインパクトでは物足りない印象。「全体的に満遍なく70点台」を並べた感じで、まあ平均すれば同じような点数になるんだが。しかしまあ、一番印象に残るのが“À Tout Le Monde”というのはいかにもよろしくない。

ただ、ここ10年ほどのアルバムの中ではもっとも自信に溢れた音になっているのも確か。「色々あったけど、やっぱオレ、コレしかできません!」と言わんばかりにギターをグギャグギャ言わせまくっているのが気持ちいい。Mustaineの手下ども(G,B,Dr)も健闘していると思う。個人的にはもうちょっとメロディに気を遣って欲しいところだが、Mustaineがこれでいいのなら外野がとやかく言うこともないだろう。どうせ何やったって誰かにケチをつけられる運命にあるからな、このバンドは。

Megadethには何の思い入れもないし、Mustaineに対しても、インタビューを読んでいて感じる「感情のブレの大きさ」がどうにも好きになれないのだが、アルバムはそれなりにカッコよくて聴きこんでしまうし、次のアルバムが出たらそれなりに楽しみな気分になる。今回もやはりそれなりにカッコよくて結構聴いているし、次のアルバムが出る時は楽しみに待ちたい。

どのあたりが「何じゃコリャ?」かと申しますと。

4曲目“United Abonimations”のイントロが聖飢魔II“蝋人形の館”のそれ(アルバム「The End Of The Century」に収録されている長いヴァージョン)とよく似ているところとか。

聖飢魔IIを知っている人間ならあの不気味なムードのギターに合わせて「お前も蝋人形にしてやろうか!」とか、叫びたくなるに違いない。私はクルマの中で叫んだ。

あ、「Q2K」レビューでチラッと書いた話の続きね。Megadeth新譜。

Queensryche「Q2K」

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Megadeth新譜のレビューを書くつもりだったのだが、現時点での感想は「何じゃコリャ」で何とも書きようがないので、GWに実家近くのタワレコでゲットしたQueensrÿche「Q2K」リマスター盤についてでも書いておこうか。「ソッチのほうがよっぽど『何じゃコリャ』やんけ」とか言うの禁止。

「Q2K」は1999年に発表されたアルバムで、当時のQueensrÿcheは「Hear In The Now Frontier」の後に曲作りの重要な核を担っていたChris DeGarmo(G)が抜け、さらにレコード会社からドロップされるというハードな状況で、新たにKelly Gray(G)~Candoleboxのプロデューサーを務めた人物で、Geoff Tate(Vo)のアマチュア時代の盟友らしい~を招き、新しいマネージメントと契約して作られたのが「Q2K」なワケだが、Geoff Tateの歌詞は、何かすがりつくものを探しているような、今読み返すと痛々しさを感じさせるものが多い。

リマスター盤に添えられたGeoffのライナーによると、Kelly及び彼の周りの人間が「制御の利かない状態」で「Kellyが在籍している間ほど、大量のドラッグやアルコールが消費されていくのを見たことはない」そうで、その後のツアーにおける状況もかなりハードだったようだ。その後脱退したKellyについてはGeoffが「Tribe」リリース時のインタビューで「正式メンバーではなかった」というコメントを残しており、また、その後のライヴ盤「The Art Of Live」でも「Q2K」の曲は一曲も選ばれておらず、その冷淡な扱いぶりが引っかかったものだが、あの時期についてはあまりいい記憶がないのだろう。

「Promised Land」「Hear In The Now Frontier」という問題作2連発(私は両方とも好きですけどね…)をくぐり抜けた人たちにも評判が良かったとは言いがたく、にも関わらず2001年に来日が発表され「なんでこの時期に?」とみなの首を傾げさせたと思ったら延期→中止になるといったゴタゴタもあり、まさに「冬の時代」を象徴するような1枚と言えよう。

ただ、このアルバム、個人的にはそんなに嫌いじゃないんよね。繊細なバラード調の“When The Rain Comes...”やGeoffの表現力が豊かすぎる中音域を堪能できる“Liquid Sky”など、平坦ではあるし彼らの水準とすれば満足は出来ないが、コンテンポラリーなアメリカン・ハード・ロックとしては意外と聴ける。リマスター盤にはボーナス・トラックを4曲収録。そのうち未発表曲の“Until There Was You”“Howl”(前者は広がるのあるサビが印象的なバラード、後者は「Empire」の楽曲をラフにしたようなハード・ロック)については「この曲が加わることによって、アルバムが完成したように感じる」「当時、何故収録されなかったのかは本当にわからない」とGeoffも述べているように、結構良くできている。特に“Until~”は是非収録するべきだったのではないかと思うのだが。

私が買ったリマスター盤は昨年リリースされた輸入盤で、日本でもこの6月にリリースされる予定。90年代中盤~後半で脱落した人が「Operation:Mindcrime 2」で復活→ライヴを観た後にたまたまこの作品をみかけて購入→( ´Д`)な人が続出しそうな予感すら漂うが、それはともかく国内盤には未発表曲の歌詞も載せていただきたいところ。私が買った輸入盤には載っていないのだ。なんでこういうトコロで詰めが甘いかなあ。

不眠症のための音楽。

ゆさんが「Marillionの『Brave』を寝ずに聴き通せたためしがない」と仰っていてたのを見て思いついた企画。要するに「寝つきが悪い時によく聴くアルバム」です。なぜかコレを聴いているといつの間にか寝ている、というCDをご紹介。

注意:真剣に不眠症に悩む人には多分、何の足しにもなりません。

1.Marillion「Brave」(1994)
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ハイ、私もこのアルバムを聴いていると寝ます(寝ずに聴き通せますけど)。

このアルバムのために膨大な量の機材が投入されたという話をどこかで読んだ記憶が微かにある。その甲斐あって、いつのまにか霧状の何かが体を包み込み、そのまま底なし沼に引き摺り込まれてしまうようなディープ極まりない音像になっているのだが、そのディープな音が眠気を誘う。

で、なんでか知らんがアルバムの中盤、このアルバムで一番好きな“Alone Again In The Lap Of Luxury”で落ちる。「この曲までは頑張って起きていよう」と思うのに、必ず落ちる。で、次の割とどうでもいい“Paper Lies”で再び目が覚めてしまったときの悲しさたるや。

2.Klaus Schulze「Irrlicht」(1972)
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Kraftwerkあたりと並んで「電子音楽の始祖鳥」的存在(多分)の1st。多重録音されたオルガンや、変調されまくったオーケストラによるドローンが1時間延々と続くアルバム。テクノというジャンルが成立する前のドイツの電子音楽はカオス感いっぱいで面白いぞ。寝そうになるけど。

別に寝るときでなくても、このアルバムは部屋を真っ暗にして聴いていただきたい。寝たら最後、確実に悪夢を運んできてくれそうなアヴァンギャルドでダウナーな一発。

3.Tiamat「A Deeper Kind Of Slumber」(1997)
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Tiamatはこの1枚しか持っていないが、この作品をカテゴライズすればゴシック・メタルということになるのだろう。重たいリズムや抑揚のないヴォーカルはいかにもゴシックだが、1曲目“Cold Seed”はなぜかニューウェーヴ調。しかも名曲。

テクノに視線を向けた電子音の多用や、似非オリエンタル調のメロディなど、繊細で耽美的な、浮遊感溢れる音像が睡魔を連れてきてくれる。

番外:Yes「Tales From Topographic Oceans」(1973)
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番外つーかむしろコッチが本命。なんだかん言ってもMarillionとKlaus Schulzeの2枚は彼らの代表作だし、Tiamatのヤツもかなり良く出来ていると思うが、コレはちょっと…。

呪術的だったり祝祭的だったり儀式のようだったり(そのものズバリ「Ritual」という曲もある)、とにかくアッパッパーなムードにいきなりハード・ロックが切れ込んできたり、掴みどころがないことこの上ない。1曲約20分×4というとんでもない(どうしようもない)大作なのだが、ジョン・アンダーソンとスティーヴ・ハウの2人がイニシアチブを握っていたようで、なるほど、このア○2人ではまとまるものもまとまらんわ。

ガチで寝たければコレしかない。何せ寝ずに聴きとおせたことがないので。それぐらいつまらんというか、ワケのわからんアルバムです。

Rush「Snakes&Arrows」

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キャリア33年を誇るカナダのトリオ、通算18枚目のスタジオ作。

前作「Vapor Trails」が、Neil Peart(Dr)が妻と娘を相次いで失い、その後再婚するという激動期を経て制作されたアルバムだったためか「バイアグラで回春!」みたいな物凄いテンションだったが、2004年にリリースされた30周年記念のカヴァー・アルバム「Feedback」では程よく肩の力が抜けていて、新作もその延長線上というか、年齢相応の落ち着いたアルバムに仕上がっている。

このキャリアでコンスタントにアルバムを出しているバンドの新作が「ツアーをやるための口実」的な、ソコソコのクオリティの曲を並べてお茶を濁すような作品になっていないのは凄いことで、93年発表の「Counterparts」から続く低重心のヘヴィ・サウンド+コンパクトなロック・チューンという基本路線は不変なれど、楽曲をシンプルにまとめ、ブズーキやマンドーラといったアコースティック楽器を導入することで過去の焼き直しを慎重に回避、なおかつ作品の質も落とさず、ファンの期待を裏切ることもなく…と、もはやこのあたりは芸術的というほかない。

アコギのフィーチュア度が高いせいか、これまでになく「枯れた味わい」を感じさせるアルバムになっているが、そんな中で個人的に好きなのは“Good News First”だ。ブックレットでこの曲の歌詞が掲載されているページのイラストを紹介しよう。雪原に遺体の上から土がかけられただけの粗末な墓と、墓に添えられた一輪のバラ、そしてカラスが一羽。そんな荒涼とした風景の中、風に舞う新聞の見出しは「治療薬、発見(Cure Discovered)」…。殺伐としたニュースばかりが飛び交う社会の中で「まずは良い知らせを聞かせてくれ」というメッセージが胸を打つ佳曲だと思う。アートワークと楽曲が相乗効果を生み出した最上の見本。

「現実を直視し、受け入れた先にある楽観主義」というのがRushの作品を貫いている世界観だと私は思っているのだが、そのしなやかな強靭さはここでも不変。この3人にしか作りえない世界は健在で、それは恐らく今後も変わることはないだろう。さすがに前作ほどのパンチ力はないが、信頼するに足る人達がその信頼にキッチリ応えた、良心的な力作。

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