非思量

King Crimson「Three Of A Perfect Pair」(1984)

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King Crimsonについては「Adrian Belew在籍時原理主義者」です。40周年記念シリーズ、80年代の3枚だけはコンプリートしました。全部輸入盤だけど。

私にとってのKing Crimsonはじめの一歩は「Three Of A Perfect Pair - Live In Japan 1984」という映像作品だった。Dream Theaterを筆頭とする洋楽メタルにハマりつつあった90年代前半のこと。どこでKing Crimsonの名前を見つけてどうやってこの作品にたどり着いたのか、さっぱり思い出せないのだが、その後一番最初に買ったKing Crimsonのアルバムがこの「Three Of A Perfect Pair」。

スラップとディレイを組み合わせたベースが楽曲の核をなす“Sleepless”、単調なリズムの繰り返しを軸に即興の要素を織り込んだ“Industry”、ドラムがひたすら機械的にビートを刻む“Larks' Tongues In Aspic Part III”等、テレビで流れる音楽(と、若干のメタル)しか知らない若造に浴びせられるものとしては十分過ぎる程の「ヘンな音楽」。

とは言え映像で一度はこれらの曲を耳にしているワケで、当時このアルバムを聴いていて違和感というか、ヘンな音楽を聴いている感を増幅させていたのが、90年代を席巻したヘヴィでオーガニックなサウンドとは正反対の、80年代中盤なりの都会的というか、人のぬくもりが全く感じられないそれ。90年代に入ってメタルにハマり出した身には随分と異様なものに映った。今改めて聴くと、その冷たい感触が「Discipline」(1981)「Beat」(1982)よりも徹底しているというか、容赦ない感じがしてこれはこれで味わい深いのだが。

よくぞここから「全スタジオ盤コンプリート」まで辿り着けたものである。ま、その後「Thrak」(1995)を購入したのがデカいと思いますけど。そこから「Red」(1974)をはじめとする第3期以前のアルバムに繋がっていったので。

なんだか厳しい物言いに終始しているように見えてしまうかも知れないが、冷静に眺めれば、Adrian BelewのポップなセンスやBill Brufordのジャズ指向が当時のCrimsonの方向性と程よく融和した、良い意味で「バンドの作品」なのではないかと思う(悪く言えば「妥協の産物」)。それなりにヘンな音楽を色々聴いてきて思うんだが、それらに比べればKing Crimsonは圧倒的に「ポップでフレンドリー」なバンドである。だから若かりし頃の私も違和感を抱きつつ何回も聴いていたのだろうし、その後ズッポリとはまってしまうのも必然だったのかも知れない。

50周年を目の前に控えてリリースされた40周年記念盤、他のアルバム同様Steven Wilsonによるリミックスが施されており、30周年記念盤と比較するとヒスノイズがキレイに除去された「Discipline」ほどの明快な変化は感じられないものの、ヴォーカルのミックスが少し変わっていたり、これまで意識することのなかった部分が耳に残るようになっている箇所もある。僅かな差ではあるが低音は輪郭がクッキリと聴こえるようになり、厚みも増している。

Kristoff Silva「Deriva」(2013)

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ブラジルはミナス・ジェライス州出身のミュージシャンを「ミナス派」と呼んだりするそうだが、そのミナス・ジェライス州出身であるKristoff Silvaの2ndアルバムがこの「Deriva」。この人の作品を聴くのは初めて。

ミナス派というのがどういう傾向の音楽を指すのか、ネットで調べてもハッキリとは輪郭がつかめなかったが、「Deriva」を聴くと「繊細」「洒脱」といった言葉がまず浮かんでくる。柔らかい声質でボサノヴァ~ジャズを思わせるメロディをサラッと歌い上げており、はじめはそこにしか耳が行かなかったのでまるでピンと来なかった。

が、インストに耳を傾けると、ふんだんに投入されている電子音がなかなかに刺激的であることに気付く。歌メロだけならこじゃれたカフェでかかっていてもおかしくない雰囲気だが、ソフトな歌モノのアルバムとして機能しつつ、時に深淵を覗いているような感覚を味わえるのが大変面白い。3曲目の“Durantes”ではラストでYes“Heart Of The Sunrise”の一節が。あ、コチラ側の方でしたか。

自分にとってそれまでに出会ったことのない音楽に出会うと「最初の一回目は全く馴染めなかったけど二回目以降、突如としてハマる」ことがまれにある。もういいトシなのでこういう経験は随分ご無沙汰だったが、このアルバムで久しぶりにこの感覚を味わった。オススメ。


Kristoff Silva“Acrylic On Canvas”
この曲はアヴァン色はかなり控えめ。

Kraftwerk「Trans Europe Express」(1977)

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私がKing Crimsonをはじめとする(他の4つのバンドを敢えて出していないのは、マトモに聴いていないからです)英国の大御所以外のプログレ魔境に足を踏み入れた瞬間というのは、以前Marillion「Seasons End」レビューでも書いた、埼玉のK君の家に遊びに行った時。この時にどこかの書店で手に入れた「ヤング・パーソンズ・ガイド・トゥ・プログレッシヴ・ロック」(音楽之友社)を購入した瞬間、私は魔境の泥沼に足を踏み入れたのである。

英独伊仏米日その他の国の様々なスタイルのプログレ作品が紹介されていたが、その本を読んで興味を持ったいくつかのミュージシャン、グループの中の1つが今回紹介するKraftwerkである。一般的には「テクノ」の括りで語られるグループなので、この本に出会っていなかったらこの時期に辿りつくことはまずなかったと思う。そもそもテクノがプログレの文脈で語られることがあるということ自体、知らなかったのだから。

残響音をカットした電子音によるパーカッション、無機質なヴォーカル、最小限の歌詞と単純なメロディの反復で構成された音楽は「テクニカルでハード」という「当時の私にとってのプログレの定義」とは正反対と言っても良いもので、装飾音もシンプルかつ最小限なものに留められ、当時の私にとっては初めて耳にする、異質そのものな音世界だった。

しかし次作「The Man Machine」(1978)が私の耳には完全に「テクノ」に聞こえて最早受け付け難いのとは対照的に、「Trans Europe Express」はその異質さが私の心を捕らえて離さない。執拗なまでに磨きこまれた音の1つ1つは、平板でありながら豊穣。アタマでは安っぽく古臭い音にしか思えないのにそういう風には聞こえず、聴き飽きない。不思議な作品ではあるが名盤と呼ぶに相応しい1枚。今なら2009年にリマスター&ジャケット新装の再発盤が期間限定1500円で買えます。ジャケ買い(今回の廉価版発売からは外れているが「Autobahn」「Radio-Activity」のデザインもシンボリックかつシンプルなもので非常にクール!)でもきっと損しない。

ちなみに2009年の再発からは初期の3作は省かれている。というか、Kraftwerkの歴史上「なかったこと」にされており、公式サイトのディスコグラフィにも記載はなく、そもそも正式にCD化されたことがない。昔はタワレコとかで工事用コーンが描かれたジャケットの海賊盤と思しきCDをよく見かけたが、今でも置いてあるもんなんかな。


Kraftwerk"Europe Endless"

Kate Bush「50 Words For Snow」(2011)

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寡作で知られながら今年はセルフ・カヴァーの「Director's Cut」、新曲のみで構成された「50 Words For Snow」という2枚の新作を発表したKate Bush。今回紹介するのは後者。1st「The Kick Inside」(1978)と「Aerial」(2005)しか持っていないので、「Director's Cut」はチト手を出しづらく、結局スルーしております。

雪がテーマとなっている作品だが、音数を絞り、高音を最小限に抑えた控えめな歌唱も相俟って、ごうごうと吹き荒ぶブリザードではなく、闇夜にしんしんと降り積もる雪のような、静かで柔らかいイメージ。「Aerial」もそうだったが、暗くした部屋で聴くと心地良く浸れるタイプの音。それでいて内に秘めた激しさを感じさせる。

多彩なゲスト(「Aerial」のブックレットで登場したBertieことAlbert McIntosch-Kateの息子-も"Snowflake"でVoを披露)を迎えているが、やはり何と言ってもElton Johnの参加が一番のトピック。互いに想いあう男女が「あなたを失いたくない」とロマンティックに歌う"Snowed In At Wheeler Street"でKateとの見事なデュエットを聴かせている。この曲とラストのKateによるピアノ弾き語りをオーケストラが静かに引き立てる"Among Angels"は、何というか、心に沁みる。

「Aerial」もとても良い作品だったが、こちらもソフトで優しい音世界の中にピリッとしたエキセントリシティを少し織り交ぜた、深い余韻を残す良質な作品である。今年の更新はこれでおしまい。良いお年を。

King Crimson「Starless And Bible Black」(1974)

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The 25 best basslines of all time

上の記事(ラインナップされた25曲全てが試聴可能)では残念ながらランク・インしていないが、ベース・ラインという語句から私の頭に真っ先に浮かんできたアルバムがKing Crimson「Starless And Bible Black」だった。ちょうどいいタイミングで40周年記念盤がリリースされ、それでもってこれがまたビックリするほど素晴らしかったのでここで紹介しようと思う。

このアルバムを知らない若人向けに解説しておくと、このアルバムはRobert Fripp(G)、John Wetton(B)、Bill Bruford(Dr,Per)、David Cross(Violon)の4人で録音されており、全8曲中、冒頭のVo入り2曲("The Great Deceiver"、"Lament")及びやはりVo入りである"The Night Watch"の一部を除いた全てがコンサートで演奏されたライヴ音源を元に製作されており、前記Vo入りの曲及びラストの"Fracture"以外は全てインプロヴィゼーション(即興演奏)である。

しかし予備知識無しに聴けば、これが即興演奏主体で製作されたアルバムだとは夢にも思うまい(観客の歓声や拍手は一切入っていないし、ライヴ・レコーディングである旨の説明も特に無い)。特に、Crossのヴァイオリンが甘美な音色を響かせる"Trio"(この曲名はBrufordが敢えて演奏に参加しなかったことから名付けられている)や、静かながらも混沌とした音の連なりがやがて一体となるも一瞬の爆発の後に音が霧散していく"Starless And Bible Black"は即興であることすら信じ難い曲である。

作曲された曲も冒頭2曲のドライヴ感、"The Night Watch"のリリシズム、ラスト曲"Fracture"の超絶アルペジオから静寂→爆発の展開における破壊力、全てが素晴らしい。所謂第3期Crimsonは(当初の5人から1人ずつメンバーを減らしながら)3枚のオリジナル・アルバムを残しており、一般的にはラスト作の「Red」もしくは1枚目の「Larks' Tongues In Aspic」が脚光を浴びがちだが、衝動性と創造性、バンドとしてのケミストリーといった様々な要素が最も高い位置で融合しているのはこの「Starless And Bible Black」だと思う。以上、若人向け解説終わり。

ここからは40周年記念セットのコンテンツに対する感想だが、まず何より新ミックスが素晴らしい。近年のテクノロジーの進歩により、70年代の作品も音質面であまり古臭さを感じることなく聴ける機会が増えているが、この新ミックスなどはまさに「テクノロジー万歳!」。音の1つ1つの輪郭がハッキリとして立体感が増しており、この傾向はインプロ曲でより顕著になる。これはボーナス・トラックの"The Law Of Maximum Distress"も例外ではない。ボックス・セット「The Great Deceiver」に収録された同曲のテイクと聴き比べれば一目瞭然。

また、ここで聴けるWettonのベースが尋常でない。先述の通り、元々ベースが印象に残りやすい作りなのだが新ミックスで迫力倍増、曲を牽引するというより、他の楽器を追い立てるように唸りを上げるサマはあたかも野獣の如し。King Crimsonは一分の疑いも無くRobert Frippのバンドだが、音楽面ではリズム隊が大きな役割を果たしていることが改めて分かる音に仕上がっている。

このアルバム、これまでは「傑作だけど一見さんにはかなり厳しい」という認識だったのだが、この音ならたとえKing Crimson未経験の人にも(難解な音楽に対するある程度の経験値は要求されるにしても)自信を持ってオススメできる。DVDに収録された30周年リマスターと聴き比べて欲しい。明らかに違うから。その他のライヴ映像を含むコンテンツも充実。国内盤は高くてちょっと…と仰るなら輸入盤でもOK。ちなみに私は輸入盤を購入。

もうRobert Frippのアコギな商売に付き合う気はないので40周年記念盤シリーズはことごとくスルーしていたのだが、これは本当に買って良かった。

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