非思量

Emler Tchamitchian Echampard「Sad And Beautiful」(2014)

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Andy Emler(Pf)、Claude Tchamitchian(B)、Eric Echampard(Dr)からなるフランス発ピアノ・トリオの3rd。

流麗なピアノが紡ぎ出すメロディに身を委ねたくなるアルバム…ではあるのだが、突如各楽器が縦横無尽に暴れまわるアンサンブルでその穏やかな空気を破壊しにかかるユニークさが特徴。緊張と緩和の対比というか、錯綜がなかなかに一筋縄ではいかない感じ。“A Journey Through Hope”や“Elegances”でその傾向が顕著で、ドラムが突然物凄い手数で暴れ出してあっけに取られる展開が。

Andy Emlerという名前、どこかで見たことがあるような…と思い部屋のCDラックを漁ってみたらAndy Emler Megaoctet名義の「West In Peace」という2007年発の作品が出てきた。Emlerを含めて9人の大所帯で、改めて聴きかえして見るとチェンバー・ロック風味が結構強い作品だったのだが、「Sad And Beautiful」もやはり、ジャズ・ロックというよりはシリアスなチェンバー・ロックのテイストが結構色濃く表れている。

美しいメロディと怒涛のアンサンブルでもってジャズ・ロックとチェンバー・ロックを行き来する作風はなかなかに私好み。トリオ編成ならではの緊張感というか、引き締まった空気が一貫して流れているのも良い。


Emler Tchamitchian Echampard“Last Chance”

Empty Days「Empty Days」(2013)

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イタリアを拠点とするRIO(Rock in Opposition)/チェンバー・ロック系の作品をリリースするAltrockレーベルに所属するYugenというバンド(私は未聴)のギタリスト、Francesco Zagoをリーダーとするプロジェクトの1st。

深い翳りを帯びた、ノイズや音響処理を加えたアコースティック調のサウンドはモロにRIO~チェンバー方面のそれ。16~17世紀の英作曲家兼リュート奏者であるJohn Dowland作の2曲を含む7曲のVo曲と7曲のインスト曲が交互に並ぶ構成。1曲目の“Two Views On Flight”は6曲で歌っているElaine Di Falcoによる落ち着いたVoの多重録音が実に端整な表情を見せており、正直、少し感動した。Vo入りの残りはRachel O'Brienが“Flow My Tears”(John Dowland作の2曲のうちの1つ)で流麗なソプラノ・ヴォイスを披露している。

インスト曲は21世紀に入ってからのArt Zoydを彷彿させる、かなり現代音楽風味の強い曲が多い。隙間の多い、様々な楽器が爪弾く単音の連なりで幽玄の世界を感じさせる曲から、ありていに言ってしまうと一般人にはお化け屋敷のBGMにしか聞こえないようなのものまで。後者は怖い。

1曲目の感動が最後まで持続するかと言われると少し苦しいが、出来は良い。暗黒チェンバーと呼ばれる音楽の虚ろな雰囲気だとか、クラシックを基調としたある種の優雅さといったものは着実に継承しており、このテの音に興味がある人向けの入門編としては悪くないのでは。もう一歩ディープな世界に踏み込んだアルバムとしてはJean-Philippe Goude「Aux Solitude」(2008)という傑作もあるので、興味のある方はチェックしてみて欲しい。


Empty Days“Running Water”
このテの音の、典型的なタイプの曲と言えるかも。

Exivious「Liminal」(2013)

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Cynicの元メンバーを含むテクニカル・フュージョン・メタル4人組の2nd。1st「Exivious」(2009)をリリース翌年に購入した時点で確か公式サイトに「Exivious no longer exists.」と書かれていたので1stを「プロジェクト第1弾にしてラスト作」と書いたが、この度めでたく2ndがリリースされた。

音楽的には1stからあまり変わっていない。サウンドはモロにメタルだが、低音をゴリゴリさせて飢えた肉食獣よろしく襲い掛かってくるような荒々しさではなく、フュージョンのような軽やかさでアンサンブルと随所で炸裂するキメで埋め尽くされた曲をサラッと聴かせる作風。元々Cynic風味というのはそれほど感じられなかったが、今は亡き(と思いきやWikipediaに「In 2013, the band announced a reunion with a new album in the works. 」との記述が)Canvas Solarisからビザールな要素を取り除いた音、と表現したほうが近い。

あまりガッついた感じがなく、ジャズ・ロック度がやけに高いが変態度は案外低めというか。聴いた後の印象としては「優雅」という言葉が一番しっくりくる。4曲目の“Deeply Woven”はソプラノ・サックスのソロをフィーチュアしていて大変カッコいい。ソプラノ・サックスという、メタルとの親和性が高いとは思えない(Dream Theater“Another Day”でも登場するが、あれは曲調としてはAORだし)楽器と何の違和感もなく共存しているのが、Exiviousの音楽の特異性を表していると思う。


Exivious“Deeply Woven”

Ex-Wise Heads「Schemata」(2011)

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英国人サックス/フルート奏者のGeoff LeighとPorcupine Treeのベーシスト、Colin Edwinのデュオ、Ex-Wise Headsの2011年作。ゲストとしてRick Edwards(Percussion)を加えた3人編成が基本で、1曲では更にアコースティック・ギターが加わっている。

アンビエントでサイケデリック。プログレというよりはジャズ・ロック。こう書けば分かる人には分かるのだろうか。ぎっしりと音を詰め込むフュージョンではなく、多彩な音色のパーカッションとベースを従えてLeighのサックス/フルート/チター/口琴等が奔放に舞い踊る音像はむしろ「間」というか、音の向こうにある空間を意識させる作風。

5年前に見たPorcupine Tree来日公演(2000人収容できるZEPP OSAKAに客が250人しかいなかった)でのEdwinはどうもパッとしなかった記憶があるのだが、このアルバムでのプレイは存在感があって良い。クールな体裁を保ちつつ、緊張と弛緩を自在に行き来する音。ほのかに漂うアジアン・テイストもマル。秋の夜長、酒のお供に。


Ex-Wise Heads"Ascendance"

Ektar「Kontrapunkt」(2010)

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ハンガリー産7人組トラッド・バンドの3rd。過去2作は未聴。

出だしはいかにも西欧クラシック出自の室内楽然としているのだが、地中海方面を思わせるメロディの女声スキャットが俄然妖しさを醸し出してくる。現地語で記載されていると思しき曲名はさっぱり意味が分からないが、現地語曲名のあとに"Song From The Border I."とあり、チェンバー・ロックという1つの枠に囚われていないのは意識的なものだろう。

続く2曲目はウッド・ベースのソロで始まるが、やはり女声スキャットが妖艶さの中にほのかに哀愁を漂わせるメロディをゆったりと聴かせる。このあたりになると結構ジャズ・ロック色も濃くなり、シリアス・チェンバーとか、そういう系統かなと思っていたコチラを見事にはぐらかしてくれる。その後はチェンバー~中欧トラッド~ジャズ・ロックのみならずタブラやサーランギがアラブ/南アジアテイストまで漂わせてきて、なかなかに強烈なハイブリッドぶり。

この目まぐるしさというか雑多さというのは、やはりハンガリーという、アジアと西欧の中間点にある地域ならではのものなのかも知れない。そういえばEddie Jobsonプロデュースでブルガリアの女声クワイアをフィーチュアしたThe Bulgarian Women's Choir - Angelite「Voices Of Life」(2000)も、曲調は西洋的なのにクワイアの和声やコブシの利かせ方がどことなく東洋的で興味深いシロモノだった。まあそれはともかくこのEktar、幽玄の美を感じさせるアコースティック音楽としてなかなか面白いグループだと思う。


タブラ奏者を除く6名による2007年のライヴ映像。

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