非思量

Bonobo「Migration」(2017)

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イギリス出身のエレクトロニカ系ミュージシャン/サウンド・プロデューサー、Simon GreenがBonobo名義でリリースした6th。彼の作品を聴くのは初めて。

各ピースが決められた場所にカッチリ配置された、完成されたパズルのような音とでも申しましょうか。プログラミングオンリーではなく、生楽器やフィールド録音をふんだんに用いてオーガニックな響きを強調しつつ、ロックやジャズ等のフィジカルな音楽が持つグルーヴとは縁遠い、逸脱とは対極にあるような端正な音楽。Wikipediaを見ると彼の属するジャンルは「Electronica, trip hop, acid jazz, chillwave, downtempo, soul」と多岐に渡っているが、ソッチ方面に疎い私が一言でまとめると「いい夢を見られそう」。心地良い白昼夢を思わせるダウナーな響きは、寒い冬よりも柔らかい陽光降り注ぐ春が似合う。

「移住」というタイトルと関係あるのかどうかは分からないが、モロッコの伝統音楽グワナを演奏するグループのVoを迎えたワールド・ミュージック的な“Bambro Koyo Ganda”、打ち込みのビートや広がりのあるエレクトロニクスのサウンドが冷たい感触をもたらす“Outlier”、ストリングスをフィーチュアした情緒あふれる“Second Sun”等、曲ごとに全く別の場所に立っているかのような、それぞれ異なる情景が描き出されている。こういう多様性というか、多彩さを持った作品は個人的には好み。出来も高水準。良い作品だと思う。彼は自身の曲を生バンドで演奏するライヴ活動も行っているそうで、ソチラも面白そう。


Bonobo“Break Apart”

Blue October「Home」(2016)

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3年ぶりの8th。今回もクラウドファンディングでレコーディング資金を募ったうえで製作されている。なお、前作「Sway」(2013)ではメンバーとしてクレジットされていたのは4名だが、今回再度ギタリストが加わった5名がメンバーとしてクレジットされている。

「Sway」及びその前の「Any Man In America」(2011)はポスト・グランジにカテゴライズされているバンドらしいヘヴィネスをそれなりに備えていたが、今回はJustin Furstenfeld(Vo)のルーツと思しきニュー・ウェーヴ色、あとPink Floydとかのアトモスフェリックなプログレ的テイストがかなり色濃く表れているように感じられる。

重々しさを伴うサウンドや“The Feel Again(Stay)”“Bleed Out”のようなドラマティックなナンバーは姿を消し、キーボードによるシンプルながらキラキラした色彩のフレーズと、カラッと突き抜けきれない湿っぽさを帯びたメロディが楽曲の大半を占める。前作がとても良く出来ていたので、この新作は期待と不安が半々だったが、その両方が裏切られた印象。はじめは「え、こんななっちゃったの?」というのと「これ、なかなか悪くないやん」というのがゴッチャになっていた。

何回か聴いているウチに「結構いいなコレ」というのが大勢を占めてきてはいる。たま~に80年代すぎて「うわあ…」てなるようなイントロの曲があったりするけど。前作のような音を期待すると肩透かしだが、気にしなければなかなかの良作。

後半にラウド感のあるドラムを前面に出した“Houston Heights”があったりするが、これとてロックではないところから着想を得ているような。例えば80年代前半のワールド・ミュージックにかぶれていた頃のPeter Gabrielとか。どこか、Marillion脱退直後のFishが現代のMarillionを歌っているような感じがしないでもない。“Leave It In The Dressing Room(Shake It Up)”とか、どこか「Marbles」(2005)収録の“Drilling Holes”に通ずる空気が漂っているし。Justinの音楽的嗜好とSteve Hogarth(Marillionの現Vo)のそれが近いのかもしれない。


Blue October“Home”

Bill Laurance「Swift」(2015)

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テキサス州で結成されたフュージョン・グループ、Snarky Puppyのキーボーディスト、Bill Lauranceのソロ・アルバム。ギター、ベース、ドラムスといった一般的な編成に管弦楽器隊も加わっている。

毒気は薄く、どことなく無菌室で奏でられている音楽のような印象を受ける。ポスト・ロックやエレクトロニカのフィルターを通過させたような澄んだサウンドや、いくつかの曲で採用された、ヴォコーダーを通したヴォーカルがそう感じさせるのか。漠然とだが、21世紀ならではの音だなあ、と思う。時にダンサブルであり、時にニュー・エイジのようでもあり。

ジャズのようでありクラシックのようでもあるが、Balmohea「Stranger」(2012)が脳裏をよぎる瞬間も。ストリングスがふわーっと立ち上がってきて、グルーヴィーなリズムとシンプルなピアノをバックにヴォコーダーのヴォーカルが舞う“U-Bahn”や、クラシカルなピアノとモダンな息遣いのサウンドの取り合わせが絶妙な“Swift”あたりが特に良い。エレガントさとラディカルさが良い塩梅で混ざりあった作品。


Bill Laulance”Swift”

Blue October「Sway」(2013)

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テキサス州ヒューストンで結成された4人組(Vo,G+B+Dr+Vln)の7th。自主レーベルからの発売で、ファンからの予約でレコーディング費用を賄う、現在インディー系ミュージシャンの間で流行のMarillion方式で製作された。

前作は良く出来ていたとは思いつつ“The Feel Again(Stay)”という一撃必殺の曲とその他大勢のちょっととっつき辛い曲、という印象が拭えなかったが、個人的に一番お気に入りな、シリアスに歌い上げる1stシングルのバラード“Bleed Out”以外にも、荘重な展開で聴かせる“Fear”や、柔らかくポジティヴなサウンドとメロディが印象的な“Things We Don't Know About”、打ち込みを使用してちょっぴりR&Bの香りを漂わせる“Light You Up”、サビでダイナミックなリズムを聴かせる“Things We Do At Night”等、全体的にクオリティ面での底上げがなされている。

ストリングスもフィーチュアした、ヘヴィネスを強調しないポスト・グランジ~アメリカン・ハード・ロック路線を継承しつつ、全体的に前作よりも馴染みやすい曲が増えたように思う。一部の曲ではさらにPeter Gabriel(或いはソロ転向後のFish)色が強まっているヴォーカルも前作より良くなっている。なおVoを除きGenesis色はゼロ。但しPeter Gabriel「So」「Us」に通ずるスケールの大きさや静謐さのようなものは結構強く感じられる。Rush「Presto」、或いはMarillion「Holidays In Eden」といった、カタログの中ではやや地味な佇まいを持つアルバムが愛せる人にはオススメできるかも。良い作品。私はこういうの、好きだ。


Blue October“Bleed Out”

Brandt Brauer Frick「Miami」(2013)

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ドイツの3人組人力ミニマル・テクノ・ユニットによる3rd。

The Brandt Brauer Frick Ensemble名義の前作「Mr. Machine」(2011)は1st「You Make Me Real」(2010)収録曲を大人数のアンサンブル編成で再録音することが主目的となっているような作品で「これでもう目一杯かな?」と思ったが、どうやらアイデアの引き出しにはまだ奥行きがあったようである。

単調な4つ打ちのリズムがダンス・ミュージックであることを主張しているが、相変わらず享楽的なノリとは無縁、電子音に頼らない重層的なサウンドでチェンバー・ロック愛好家にアピールするその曲調はさらにダークかつ複雑さの度合いを増している。さらにゲストVoにJamie Lidellを起用した“Broken Pieces”のようにダーク・チェンバー然としたトラックを従えつつソウルフルな歌モノになっているものまで。“Verwahrlosung”はレコメン系にもアピールしそうな気がする。

半分以上の曲で起用されたゲストVoの存在が決め手となってソウルのフレーヴァーが漂うミニマル・ダーク・チェンバーという奇っ怪なシロモノに仕上がっており、当の本人たちがどう思っているのかはわからないが、私の耳には(様式としてのそれではなく)「プログレッシヴ」な音楽に聴こえて面白い。予想外の成長振り。


Brandt Brauer Frick feat. Om'Mas Keith“Plastic Like Your Mother”

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