非思量

Nik Bärtsch's Mobile「Continuum」(2016)

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スイスのピアニスト/コンポーザー、Nik Bärtsch(ニック・ベルチュ。Baertsch、Bartsch)率いるアコースティック・ユニットMobileの、多分3枚目。Roninと異なり、Mobileはベーシスト不在の4人編成となる。

オリジナル作としてはRonin名義の「Llyrìa」(2010)以来で随分久しぶりとなるが、ミニマルなフレーズの繰り返しやリズムの微妙なズレによって生まれる独特なグルーヴを生み出す、そのストイックな求道者然とした佇まいに変化はない。

今作では「Extended」と称されたヴァイオリン、ヴィオラ、チェロといった弦楽器隊をゲストに招いており、これが新しい風を吹き込んでいる。Ronin「REA」(2004)収録ヴァージョンでは同一のフレーズを執拗に繰り返す偏執的な曲だった“Modul 18”が、ストリングスとの共演によって元のアレンジとは別種の緊張感を纏い、すっかり装いを新たにしている。

一方、ピアノ・ソロがメインだったソロ名義の「Hishiryo」(2002)収録曲の再演である“Modul 4”“Modul 5”は、今回もほぼピアノと僅かなパーカッションによる演奏で、オリジナルのプリミティヴな緊張感が色濃く残されている。

「Stoa」(2006)の衝撃から早10年、純然たる新曲が少ない(全8曲中“Modul 60”のみ)のがチト気になるが、過去曲のリアレンジや合体、再構築(元々、こういう手法を多用する人ではある)、ストリングスの導入でフレッシュさを維持している。次はベースの存在がオーガニックなグルーヴを生み出すRoninの新作を期待したいところ。


Nik Bärtsch's Mobile“Modul 29_14”(Excerpt)

The Night Flight Orchestra「Skyline Whispers」(2015)

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SoilworkのBjörn(Bjorn) Strid(Vo)とDavid Anderson(G)が中心となって結成されたThe Night Flight Orchestraの2nd。その他のメンバーはRichard Larsson(Key)、Sebastian Forslund(Per、G etc.)、Jonas Källsbäck(Kallsback)(Dr)、Arch EnemyのSharlee D'Angelo(B)。しかしどうでもいいが、自主制作でももうちょっとマシなのが作れるんじゃないか?と言いたくなるぐらいジャケのデザインが酷いな。

3年前に出た1stは存在すら知らなくて、最近になって2ndの1曲目“Sail On”を聴いてなかなか良いのではないかと思い購入。“Sail On”を聴いた時は、てっきりSpiritual Beggarsのようなレトロ・スタイルのアーシーなハード・ロックを、Stridのヴォーカル・スタイルに寄せてやや洗練された形に仕上げたアルバムなのだと思っていた。

…のだが、聴き進めていくに従い、どうもそうではないらしいことに気付く。どことなくヨーロッパのバンドが、70年代末期~80年代初頭にアメリカ進出を意識して作ったアルバムのような。ザックリ言うと、ポップなアルバムで重厚感はない。“The Heather Reports”のように70年代プログレを通過した産業ロックの香りを色濃く漂わせる曲もあり、これを聴かせた友人曰く「Totoの1stみたい」。

いずれにせよ作品を貫くのは、クラシカルなアメリカン・ハード・ロックを思わせる、ちょっぴりゆる~い感じ。CDなのに裏ジャケの曲目をわざわざ「Side A」「Side B」と分けてある事からも、この作品の意図するところは明確。「こういうのが聴きたかったんじゃないんだけどねえ」とは思うが、グロウルを封印したStridのヴォーカルは冴えてるし、まったりとアダルトなスタジアム・ロック調の“I Ain't Old, I Ain't Young”等、曲も良い雰囲気で、これはこれで楽しめる。このテの音が好きなら安心して聴けるアルバム。


The Night Flight Orchesta“Living For The Nighttime”(Live)

Noel Gallagher's High Flying Birds「Chasing Yesterday」(2015)

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90年代後半にB!誌の熱心な読者であった私にとって「ギャラガー兄弟」というのはRavenのそれであって、Oasisではなかったのである。と言いつつRavenも全然聴いたことはないのですが。

今回紹介するのはOasisのギャラガー兄弟のお兄さんの方、Noel Gallagher率いるHigh Flying Birdsの2ndである。Oasisもマトモに聴いていないのになんで…という話だが、MTVでたまたま流れていたJohnny Marr参加曲の“Ballad Of The Mighty I”がとてもとても私好みの曲だったからである。これを聴いて速攻で購入。

本人曰く「今作は、凄くブリティッシュ」(ライナーノーツより)だそうで、もやっとした空気の向こうからぼんやりと浮かび上がってくるような雰囲気の中にほのかにサイケデリックな香りを漂わせつつ、ハード・ロック好きにもアピールしそうなハードボイルドなサウンドに仕立て上げている。

1曲目の“Riverman”を聴いていて、良い雰囲気ではあるが少し地味では?とも思ったがそこは天下のOasisでメイン・ソングライターだった人、キャッチーで親しみやすいメロディをしっかり織り込んできている。“The Dying Of The Light”“While The Song Remains The Same”といった強い叙情を感じさせる曲が良い。しかしまあ何といっても“Ballad Of The Mighty I”である。ニュー・ウェーヴというかポスト・パンクというか、もっと有体に言ってしまうとU2ぽいというか、こういうスケールの大きい曲調は大好きである。いくつかの曲で導入されたサックスも効果的。オススメである。


Noel Gallagher's High Flying Birds“Ballad Of The Mighty I”

The National「Trouble Will Find Me」(2013)

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NYに拠点を置くインディー・ロック5人組の6th。インディーと言ってもセールスは立派なメジャー級で、このアルバムはアメリカで発売第1週に75,000枚の売り上げを記録している。私事ながら、発売日翌日ぐらいに地元のレコード屋でこのアルバムを入手しようとしたら「売り切れ」だった。売り切れつーても1,2枚しか売れてないと思うけど、私が住んでいるクソ田舎でも売れてるぐらいなのだから、日本でも結構な勢いで人気が浸透しているということか。

新譜のレビューを書くにあたり、前作「High Violet」(2010)のレビューを読み返し、音源も久々に聴いてみたが、やはり「High Violet」が今一つ入り込めないアルバムであることに変わりはなかった。更にその一つ前の大傑作「Boxer」(2007)と比較すると、ハッキリとどこがどうとは言えないが、何か「濁り」のようなものが感じられるのだ。楽曲の質も落ちてるし。

で、新作。一言でまとめてしまうと「だいぶ持ち直している」。月夜の中、静かに水辺で佇んでいるような、尖っているのにどこか優しい「Boxer」の雰囲気が復活している。“Fireproof”“Humiliation”あたりが特に優れており、空気の振動が伝わってくるような低音でボソボソ歌う“Demons”、急き立てるようなドラムとニヒルなVoの対比が麗しい“Sea Of Love”なども味わい深い出来栄え。

前述の「濁り」が完全に払拭されたとは言えないが「Boxer」と比較さえしなければ十分に良作だと言える(そもそも「Boxer」は私の'00年代ベストですから)。丁寧に塗り重ねられていながら厚ぼったさを微塵も感じさせないサウンドはさすが。聴く前は今作に関してかなり悲観的だったが、まずは一安心。


The National“Sea Of Love”

Nik Bärtsch's Ronin「Live」(2012)

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Nik Bärtsch(ニック・ベルチュ。Baertsch、Bartsch) 率いるスイス産ミニマル・ミュージック・クインテットの新作は2枚組のライヴ・アルバムである。いきなり余談だがNik Bärtsch's Roninは2003年にも「Live」という名義のライヴ盤を発表しているので、購入の際は注意されたい(公式サイト内のショップからなら間違えることもないだろう)。

音源は2009年~2011年の間に東京を含む様々な都市で録音されたもので、1st「Randori」(2002)から最新作「Llyrìa」(Llyria)(2010)までの各アルバムより満遍なく選曲されている。2003年発の「Live」にのみ収録されている“Modul 17”が、今回のライヴ盤で再び選ばれているのは興味深い。

2006年と2009年の2回、彼らのライヴを観ている(ということは東京で録音された“Modul 17”の現場に私はいた可能性があるんだが、公演は複数回あったうえに色々あってライヴレポは書いてないしセットリストも不明なので、実際のところはわからん)。両公演に共通して感じたのはベーシストの異様なまでの存在感(2006年の時はピアノ+ドラム+ベースというトリオ編成だったので余計に)。Baertschが提唱する「Ritual Groove Music」又は「禅ファンク」、まあ、ジャズの皮を被ったファンクとでも言いましょうか、Baertschの理念を体現しているのがBjörn Meyerだったのではないか、と感じた。

で、そのベーシストが脱退してしまったのですよ。おおお…。お別れだからというワケでもなかろうが、ベースが結構目立っている。この辺りはライヴの雰囲気を上手く捉えていると思う。見所はベースに留まらない。スタジオ盤と見紛うほどに統率された演奏、それでいて失われていないライヴ感、オリジナルとのアレンジ違い、等々。新ベーシスト、Thomy Jordiが演奏した“Modul 55”もラストに収録されているがコチラはベースがあまり前面に出てこない曲で、彼の実力は未知数。そういえば、パーカッションのAndi Pupatoも脱退してしまったらしい。見たこともないような、楽器なのかどうかすら判然としない物体を持ち込んで(楽器を自作することもあるらしい)サウンドに彩を添えていただけに、こちらも残念。このライヴ盤には全面参加しているので、長く続いたラインナップの終焉を噛みしめるように味わいたいところ。オススメですよ。

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