非思量

Hattler「Warhol Holidays」(2016)

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ドイツのベーシスト、Hellmut Hattlerのソロ。2010年の「Gotham City Beach Club Suite」以来、個人的にはご無沙汰していたんだが、その間もソロ作やJoo KlausとのユニットTab Two、Kraan等で活発に活動していた模様。

私が初めて購入した「Bass Cuts」(2004)の時からサウンドにほとんど変化がないのだが、時流におもねっている様子がこれっぽっちもないせいか、古さを感じさせないタイムレスなものに聴こえる。曲ごとにミュージシャンを使い分けて(VoのFola Dadaは固定)多彩なサウンドを聴かせるのだが、基本的には華美な装飾を避けたシンプルなものに仕上がっていることが、そう思わせる一因なのかも。

曲も然り。享楽的なムードは以前から一貫しているが、今回はどこかメロディに艶があるというか、フックのある曲が多く、聴いていて大変楽しい。“Anything At All”とか、柔らかいタッチの声で歌われる伸びやかなメロディが大変麗しい。バラード調の“Mountain Bike”も良い。

あまり低域を強調しない軽やかなHattlerのピック弾きベースの切れ味もまた不変。良作。オススメ。


Hattler“Mountain Bike”

H(Steve Hogarth)「Ice Cream Genius」(1997)

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例年、8月はCDの購入枚数が少なくて、このブログでも8月になると旧譜の紹介やらプロレスの観戦記やら企画モノやらでなんとか更新頻度を維持していたりする。

今年も今月に入ってまだ1枚もCDを買っていない(注文した新譜が届かない)ので旧譜のレビューなぞ。Marillionの2代目ヴォーカル、Steve HogarthのH名義によるソロ・アルバムである。1997年作だからEMIからドロップされてから初めてのアルバム「This Strange Engine」と同じ年のリリース。「This~」国内盤は当時日本で最もプログレに優しいレーベルだったポニーキャニオンからの配給だったが、「Ice Cream Genius」の国内盤発売は見送られている。

それ故、日本ではこの作品を知る人自体少ないだろうが、参加メンツはなかなかに豪華で、Richard Barbieri(Key - 元Japan)、Dave Gregory(G - 元XTC)、Chucho Merchan(B - 元Eurythmics)、Clem Burke(Dr - 元Blondie)といったニューウェーヴ系人脈プラスLuis Jardim(Per - 詳しくはWikipedia参照)という布陣で製作されている(その他、「Additional Genius」としてSteve Jansenらもクレジットされている)。

現在流通しているのはオリジナルの8曲入りにボートラを追加した計9曲。「Radiation」以降のMarillionのプロトタイプのようでもあるが、でもやっぱりMarillionとは違う。気だるい空気と浮遊感、時折漂う荘厳さ。簡潔にまとめるとそんな感じの作風。力の抜けたヴォーカルが多彩な曲調と共にゆったりと流れていくが、Richard Barbieriが空間を覆いつくすようなシンセを聞かせる"The Deep Water"、"Nothing To Declare"がそれぞれ中盤、終盤のハイライトとなっており、アルバムを引き締めている。後者はHogarthの流儀で作った"The Space"といった趣きも。

明らかに90年代以降の文法で作られた音楽なので、Hogarthが加入して間もない時期のMarillionや、Marillion加入前にHogarthがやっていたHow We Liveのようなクッキリした音は望むべくもないが、Marillionでも音楽的イニシアチヴを握っているであろうHogarthの最も素に近い部分がムキ出しになっていてこれはこれで味わい深い。ちなみに、BarbieriやGregoryも参加したThe H Band名義の2枚組ライヴ・アルバム「Live Spirit Live Body」(2002)はPeter GabrielやPink Floyd等のカヴァーも収録した好盤。機会があればこちらもチェックしてみては。


H"Better Dreams"

Hattler「Gotham City Beach Club Suite」(2010)

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以前はKraanというプログレ~ジャズ・ロック系のバンドで活躍していた(私は未聴)ドイツ人ベーシスト、Hellmut Hattlerのライヴ・アルバムを含めて(多分)7枚目のアルバム。

私が初めて聴いたHattlerのアルバムは2004年リリースの「Bass Cuts」(余談だが、このアルバムはThe Cuts Seriesとして一般のアルバムとは区別されている模様)なのだが、その中に収録されていた"Bass Camp"のベース・ソロにノック・アウトされて以来、スタジオ盤はずーっと(と言ってもまだ3枚目だが)追いかけている。


Hattler"Bass Camp"。「Bass Cuts」収録曲。ベース・ソロは4:30あたりから。

ジャンル的にはアシッド・ジャズと言えばいいのだろうか。このあたりの音には疎いので自信がないが、「Bass Cuts」でのサイケデリック/トリップ・ミュージックを引き摺ったような感じや、前作「The Big Flow」でほのかに漂っていたエスニックなテイストもすっかり消化されて、Hattler流のクールなサウンドに取り込まれている。Vo入りとインストの曲とがほぼ半々ずつ収録されているがどちらも出来が良い。

そして曲もさることながら、Hellmut Hattlerのベースがカッコいいんである。ピックを使ったオルタネイト・ピッキングによるプレイなのだが、フィンガー・ピッキングやスラップを駆使するプレイヤーとはまた違ったカッコ良さがある。この人のサウンドのキレの良さは聴いていて快感ですらある。そして、ベースが縦横無尽に鳴っているベーシストのアルバムであるにも関わらず胃がもたれるような重苦しさが全くない。センスええわあ。ベース好きの方は一度トライしてみては。


Hattler"Dimitri"

Halford「Winter Songs」(2009)

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Judas PriestのVo、Rob Halfordが自らのソロ・プロジェクト、Halfordを再始動。7年ぶりの3rdアルバムはなんとクリスマスを意識したアルバム。全10曲中、“We Three Kings - 賛美歌第二編52番「われらは来たりぬ」””Oh Come O Come Emmanuel - 賛美歌94番「久しく待ちにし」”といったパブリックイメージとかけ離れたカヴァーが6曲を占めている。ちなみにRob以外のメンバーはRoy Z(G)、Metal Mike Chlaciak(G)、Mike Davis(B)、Bobby Jarzombek(Dr)、あとブックレットにその姿は写っていないがEd Rothがキーボーディストとしてクレジットされている。

鍵盤奏者がメンバーとしてクレジットされているのがこの作品のミソで、しょっぱなのオリジナル“Get Into The Spirit”こそ例のヒステリック声で全編通すHalfordらしいゴリゴリした曲だが、続く“We Three kings”“Oh Come O Come Emmanuel”(ブックレットのクレジットではEmmanuelではなくEmanuelになっているが、まあ同一の曲だろう)はピアノも入っていてどことなくHelloween風。彼らにしてはソフトな仕上がりなのだが、Sara Barelles/Ingrid Michaelsonのカヴァー“Winter Song”はもっとソフトなピアノ・バラード。途中からはストリングが入ってくるが、ギターのトーンは終始クリーン。これまでのイメージとは180度正反対と言ってもいい雰囲気になっている。後半もオリジナルのR&R風や賛美歌(“Oh Holy Night - さやかに星はきらめき”等)も飛び出すがキーボード/シンセが前に出ていてギターは控えめ、メタル色はほぼ皆無で、まがりなりにもメタル・ゴッドの称号を持つ人のアルバムとしてはかなり異色である。

これはあくまで私個人の憶測だが、この作品は以前のようなハイトーンのメタル・ソングを歌うのが苦しくなってきたRobの、クリスマス・アルバムという皮を着た実験なのではないかなあ、という気がする。というのも、唯一ゴリゴリしている“Get Into The Spirit”もレンジとしては「無理にその声で歌わなくてもいいのでは?」という程度の高さなのね。メタル・シンガーとして限界が近い(既に限界だと私は思っているが)ことを見越して低中音域で歌えるスタイルをこのアルバムを通して模索している、通して聴いてそんな印象を抱いた。

まあ私は「Angel Of Retribution」のボーナスDVD収録の、ライヴでアコギを従えて朗々たる歌唱を聴かせる“Diamonds And Rust”に深い感銘を受けた身なので「とっとと別の道に進めば?」と思うのだが。バックをディストーションをかけたギター+ツーバスのドラムからアコギ+ピアノ+ストリングスに替え、あの独特な声だからこそ切り拓ける新境地を見せて欲しいのだ。いやマジで。

しかし世界中のヘヴィーメタルメイニア達がそれを許さないんだろうなあ。来年で還暦になんなんとする老いたシンガーが“Painkiller”を求められるというのも少々残酷な話である。まあそれはともかく、少し地味な感じもするがRob Halfordというシンガーの様々な表情を味わえる作品としては悪くない。10ヵ月後にこれを聴きながらクリスマス気分を味わうというのはどうでしょうか。


Halford“Get Into The Spirit”
このタイプの曲はこれだけ。

Hattler「The Big Flow」

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ドイツのベーシスト、Hellmut Hattlerの(多分)5枚目のソロ・アルバム。2006年発表。

シンプルな打ち込みビートの上にギターやベースなどのフレーズを重ね合わせるように構築していくスタイルで、前作「Bass Cuts」がHattlerのベースをメインに据えていたのに対して、今回は大半がヴォーカル入り。

華美な装飾を削ぎ落としたサウンドや落ち着いた歌唱から漂ってくるのはジャズ的なクールさだが、エレクトリック・シタールを混ぜ込んでみたり、ヴォーカルのメロディが時にエスニックなムードを醸し出したりで、統一感があるようなないような不思議な感じではあるが、一貫しているのは享楽主義的で軽やかなノリ。

要所要所でちょろっとだけ自己主張を見せる切れ味鋭いピック弾きのベースは見事なもので、単にベーシストという観点からでも日本でもっと注目されていいプレイヤーだと思うのだが、作品そのものは、コンポーザー/アレンジャーとしての彼のセンスを味わえるものだ。

基本的にドイツ以外のショップで商品を見かけない(ドイツ語ができない大半の日本人にとって、気軽に買えるとしたら英語表記にも対応しているJPCぐらいかなあ)こともあって、この人のことを知らない人がほとんどだと思われる。恐らく本人の投稿によると思われるYouTube動画をご紹介。


ディレイを駆使したベース・ソロ曲。


「The Big Flow」収録の“Didgerido”

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