非思量

Portico「Living Fields」(2015)

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ロンドンで結成されたジャズ・ロック・カルテットPortico Quartetからハング・ドラム奏者が脱退、カルテットでなくなったので名前をシンプルにPorticoと改め心機一転、再デビューとなる1st。

Portico Quartetの3rd「Portico Quartet」(2012)は今でもお気に入りの作品であるが、ハング・ドラムが、あの作品が放つオリジナリティの一翼を担っていたことは間違いないので、これ、どうなるんやろか…と思っていたら新作というかデビュー作はジャズ・ロックからエレクトロニカへの大胆な方向転換がなされていた。

方向転換した、とは言え「Portico Quartet」のレビューで書いた「シーケンシャルなリズムを軸に、冷たい感触を持つ様々な音が浮かんでは消えるような、幻想的な音楽」という彼らの作品に対する感触はしっかり保持されている。Jono McCleery、Joe Newman、Jamie Woonという3名の端整な男性ヴォーカルをフィーチュアし、奥行きのあるサウンドがダークかつディープな空気が聴き手を包み込む。「Portico Quartet」同様、部屋を暗くして聴くと凄くハマる。

ただ、ジャズ・ロックのフィールドでエレクトロニカに通ずる音を出しているから面白かったワケで、ここまでエレクトロニカそのものになってしまうと、オリジナリティという意味においては後退かな、という気もする。個人的には好きだし、良い作品だとも思うが。


Portico“101”

Paula Cole「7」(2015)

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Peter Gabrielのツアーに起用されたのを機に注目を浴びた女性SSWの、クラウドファンディングによる自主レーベルでの作品としては2枚目となる通産7th。前作「Raven」(2013)までは数曲にTony Levinらゲストを迎えて製作されていたが、今回は全曲メンバーを固定して録音されている。

バンドはピアノ、ドラム、ベース、ギター+時々Cole自身によるクラリネットという、アコースティック楽器のみからなる編成で、それゆえサウンドがよりシンプルかつジェントルになっており、ヴォーカルも比較的抑制の効いたものになっているが、それがかえって彼女の秀逸な表現力をより際立たせている。相変わらず、惚れ惚れするほど歌が上手い。

曲調としてはジャズではなくポップス/ロック側に針が振れ気味、かな?繊細極まりない多重録音のハーモニーが美しい“Gloucester Harbor Shore”からロック調の演奏を従えて力強いヴォーカルを聞かせる“Father”の流れはちょっとした感動モノ。バラード調の“Puncture Wound”も良い出来。春の日差しを感じさせる穏やかな空気のような優しい手触りを持つ作品である。


Paula Cole“Gloucestor Harbor Shore”

Pryapisme「Hyperblast Super Collider」(2013)

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フランスの5人組による2nd。彼らの作品を聴くのは今作が初めて。

物凄く頭悪そう。最初に浮かんだ感想がコレ。思い浮かんだフレーズを後先考えず(実際は考えてるんだろうけど)に切り貼りした、フリー・ジャズのような無茶なインスト・メタル(少しだけ歌詞がある曲もあるがほとんど添え物扱いなのでインストと言っていいと思う)。これだけなら今時さして珍しくもなさそうだが、面白いというか若者らしいセンスというか、変わっているのはファミコンのような8bit系ピコピコ・サウンド(&猫の鳴き声)をこれでもかと投入しているところ。

ピコピコとブラストとその他SEが入り乱れていて聴いた後にグッタリする特濃アルバムだが、時々ひょこっと現れる人懐っこいメロディや騒々しい音が一瞬消えてソフトになる展開で一息つくことが出来る。意外と緩急がついていて、やはり何も考えてないということはないのだな、と。しかし一息ついたと思ったらまたピコピコとブラストとその他SEによるけたたましい地獄絵図が展開されてもう何をかいわんや。

ラストは“禿山の一夜”のカヴァーだが繰り広げられる音世界はオリジナルと変わる所はない。なぜか曲中、某日本人占い師を日本語でdisっていて、どこでこんなしょうもないネタを仕入れたのか知らないが、いずれにせよおかしなセンスで埋め尽くされた1枚であると言えよう。テクニカルなメタルが好きでバカっぽいヤツが許容できるなら是非。


Pryapisme“Un Druide Est Giboyeux Lorsqu'il Se Prend Pour Un Neutrino”

Phoenix「Bankrupt!」(2013)

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フランス出身4人組の5th。前作「Wolfgang Amadeus Phoenix」(2009)がグラミー賞を受賞しているらしいが、恥ずかしながら全く知らなかった。“Entertainment”の韓国ドラマや北朝鮮のマスゲームをイメージさせる映像を脈絡なく繋ぎ合わせたようなPVと、まるで80年代ディスコ・ミュージックのようなサウンドや曲調に「何だこりゃ?」と興味を魅かれてアルバムを買ってみた。私が購入した国内盤は“Entertainment”のリミックスを3曲収録したCDを含む2CD仕様。

帯を見るとVo+G×2+Bという編成(ドラムはゲストを招いている模様)だが「80年代のRushでももう少し控えめだったんじゃない?」と言いたくなるシンセ・サウンド大行進。ギターやベースの存在感がやけに薄い。そのシンセはやたらとキラッキラして叙情性を拝した80年代風味。フレーズもやけにアジアへの憧憬を感じさせる無国籍風味が全編を貫く。こ、これが最先端のポップ・アルバムなんでしょうか?繊細と言うか、どことなくフニャッとした味わいのヴォーカルなど、確かに現代的に響く箇所もあるが、それは別としても、「オッサンが既視感を覚える音」が今の若いリスナーには新鮮に響くのかもしれない。

訳詞を読むと、歌詞からはグラミーを獲ってスターダムにのし上がったが故の苦悩のようなものを感じないでもないが、前述の“Entertainment”は言うに及ばず、ダンサブルな側面を強調した“S.O.S. In Bel Air”、キラキラした中にゆったりした荘重さを覗かせる5分弱(アルバムの中では尺が長い)の“Bourgeois”等、時に享楽的、時にロマンティックな楽曲は魅力的で、オルタナティヴ~エレクトロニカ系のポップ・ソング集として楽しめる。初めて聴いたのにこのようなことを書くのもちょっとどうかと思うが、バンドが成熟期に入ったと思わせる完成度を誇る作品である。



Phoenix“Entertainment”

Pamela Moore「Resurrect Me」(2013)

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Queensryche「Operation:Mindcrime」(1988)に参加したことでメタル・ファンにその名を広く知られることとなった女性ヴォーカリストPamela Mooreの、ソロ名義としては4枚目となるアルバム。Solna「Eurameric」(2009)で共演したRalf Scheepersがゲストで参加している。

オルタナティヴ色が濃厚だった前作「Stories From A Blue Room」(2006)から一転、メタリックなサウンドが支配的。ハスキーで個性的な声と多彩な表現力を持つ人だがなんだかんだ言っても「The voice of Sister Mary」として名が売れている人、「コレがアタシの生きる道」と見定めたか。

とは言え、Radar「RPM」(2000)のサウンドを今風のヘヴィなものにアップデートしたようなSolnaとはまた異なる味付けになっている。サウンドはSolnaにも増してヘヴィネスを強調しており、メロディ・ラインは「Stories~」のオルタナ風味にメタルらしい高音を付け加えたダークな感じで、Radarのような、所謂メロハーと呼ばれる音楽性からは遠いところにある音楽、だと思う。

感心するのは、1stソロの発売が1981年だからもうそれなりにトシを食っているハズなのに高音の伸びが結構なレヴェルを維持していること。6年前、Queensrycheに帯同して来日した時のヴォーカルも大変良かった(「Mindcrime At The Moore」(2007)ではイマイチ調子が良くなさそうだったが)し、昨年、Todd La Torre側のQueensrycheにライヴでゲスト参加した動画を見ても、オーディエンス録音で不明瞭ながらなかなかの歌唱を聞かせていた。プロフェッショナルですなあ。


Pamela Moore“Paranoia”

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