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Mercedes Peón「Deixaas」(2018)

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2000年代前半の頃だっただろうか、ガリシア・トラッドという言葉を目にする機会が多かった気がする。スパニッシュ・ケルトという呼称が一般的なようだが、スペインのガリシア地方に伝わる、ガイタと呼ばれるバグパイプやバンデイレータと呼ばれるタンバリン等を用いた音楽を指す。このジャンルに属するミュージシャンのうち、私はLuar Na Lubreと今回紹介するMercedes Peón(Peon)の作品をそれぞれ数枚ずつ所持している。

Luar Na Lubreが今でもコンスタントのアルバムを出しているのは知っていた(作品は追いかけてないけど…)が、Mercedes Peónは多大なるインパクトを受けた2nd「Ajrú」(2003)に続いてリリースされた「Sihá」(2007)がどうもピンと来なくて(このレビューを書くにあたって10年ぶりぐらいに聴き返してみたら結構良かったんですけどね)、その後リリース情報も入ってこずそのまま私の意識からフェードアウトしていた。

彼女の名前がふと気になったのは先月紹介したEmel「Ensen」(2017)を聴いていた時。別に似ていないけど、伝承音楽をベースに先鋭的な音作りを志向しているという点で2人は共通していて、ふとPeonのことが気になって調べたら2010年に4th、そして今年5thと、寡作ながらもリリースを続けていることを知り、その5枚目となる「Deixaas」を購入した次第。

2nd、3rdで賑やかに鳴り響いていたガイタやアコーディオン等々の各種アコースティック楽器に代わり、打ち込みのビートやヘヴィなギター、各種ノイズで構成されたインダストリアルかつストイックなサウンドが作品を支配しており、こうなってしまうとどの辺が「スパニッシュ・ケルト」なのかは私には最早判別不能、硬軟の振れ幅が極端なアクの強い女性ヴォーカルによる先鋭的な音楽、という表現になってしまう。

バックの演奏は一変とまでは言わないにしても結構様変わりしている印象だが、13歳の時に聴いた地元の女性達による歌いまわしの模倣がベースになっているという独特の節回しが形作る彼女の強固な個性は不変。タイトル・トラックのカッコ良さと異様さはかなりのもの。特濃の1枚。


Mercedes Peon“Deixaas”

Freak Kitchen「Confusion To The Enemy」(2018)

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スウェーデン産パワー・トリオ、Freak Kitchenの4年ぶりとなる9th。

シンプルでキャッチーなメロディをポリリズムだの変則的なリズムだのでギッチギチに固めておかしな曲に仕上げてしまうのが彼らの基本スタイルだが、今回はそのリズム面での技巧が従来と比べると控えめ。曲調も比較的落ち着いているというか、前作「Cooking With Pagans」(2014)収録の“Freak Of The Week”のようなパワフルな曲がないのではじめはやや戸惑うが、中盤5曲目に配されたタイトル・トラック“Confusion To The Enemy”がそのテのややこしい部分を一手に引き受けているような曲でとにかく強烈。

お得意の奇数拍子やポリリズムはまだ序の口、スクラッチのようなヴォーカルの処理、更にはスリップビートも駆使して聴き手を困惑させにかかるが、何よりサビで4回繰り返すサビメロの歌いだしのタイミングを毎回微妙に変えてくる(て、言いたいこと伝わってますかね)というのが異様すぎる。きょうび構成やリズムが複雑な曲というのは最早珍しくも何ともないが、平易なメロディをここまで徹底的におかしな聴かせ方をする人、他にいないと思う。

Mattias IA Eklundhの8弦ギターやユニークなプレイ・スタイルが取り沙汰されがちだがリズム隊の上手さも異常。シンプルなわかりやすさに比重を置いている気がするが、タイトル・トラックの存在もあって、トータルでは異形のハード・ポップとしての存在感バリバリのアルバムに仕上がっている。


Freak Kitchen“Confusion To The Enemy”

Emel「Ensen」(2017) 「Ensenity」(2018)

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Emel Mathlouthiは北アフリカに位置するチュニジア出身のSSW。2010年から2011年にかけてチュニジアで起こった所謂「ジャスミン革命」において彼女の曲がアンセムとなった、らしい。すいません、全然知りませんでした。

じゃあ何故彼女のことを知ったかというとこれが地元のFMラジオでして。スポンサーが地元のラウンジで、ドラァグクイーンとベリーダンサーをゲストに迎えてトークしたり音楽を流したりするというやけにディープな番組を運転中たまたま耳にしてしまったのだが、その番組で流れていたのがデビュー・アルバム「Kelmti Horra」(2012)のタイトル・トラック(2006年に制作された曲で、これが前述のジャスミン革命でアンセムとして歌われた曲)と、2nd「Ensen」のリミックス(作中では「Rework」と称している)・アルバム「Ensenity」からの“Ensen Dhaif”だったのだ。前者は正直あまり印象に残っていないのだが、後者がエレクトロニクスを大胆に導入した先鋭的な雰囲気の音だったので興味を持ち、まず「Ensenity」をDL→やはりオリジナルも聴かなくちゃということで「Ensen」をCD(国内盤が出ています)で購入した、というのがここまでの流れ。

ラジオで聴いた“Kelmti Horra”のイメージから「Ensen」もアコースティック主体のいかにもアラブっぽい音をイメージしていたのだがさにあらず、Björkの作品に参加した経歴を持つValgeir Sigurðssonを迎え構築されたアーティスティックなサウンドに伸びやかなEmelのヴォーカルを乗せた、美しくもシリアスなムードの作品である。それでいてアラブ色豊かなサウンドやコブシの効いたヴォーカルもしっかりフィーチュアされており、洗練と濃厚さが絶妙なバランスでミックスされた仕上がりとなっている。

前にも書いたが私はこのテの「トラッド+エレクトロ」といった趣の作品が好物で、この2枚も良好物件。私は行き掛かり上「Ensenity」から先に聴いたがこちらはやはりオリジナルから「アレンジ等、何がどう変わったか」に目を向けるべき作品なので、順番としては「Ensen」から先に聴くべきだろう。


Emel“Kaddesh”

Steve Perry「Traces」(2018)

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Journeyの元Vo、Steve Perryの24年ぶりとなる3rdソロ。

Journeyに参加した最後のアルバム「Trial By Fire」(1996)がリリースされた頃といえば、私が割とどっぷりと洋楽(主にハード・ロック/メタル方面)に浸かっていた時期だがJourneyにまでは手が回らず、ラジオとかで聴いた記憶もない。ご存知の通り、Perryはその後バンドを脱退して隠遁生活者に近い状態となってしまったため、今まで彼の歌をリアルタイムで聴いたことはなかった。後追いでなら聴いているけどそれもせいぜい“Don't Stop Believin'”“Separate Ways”程度。ただ現VoであるArnel Pinedaのシンデレラ・ストーリーは少しだけ追いかけていて、映画も観に行った。昨年Journeyがロックの殿堂入り際には姿を現してPinedaとハグをしていたこともPinedaのインスタグラムで把握しております。でもアルバムは持っていない。バンドの動向も一切チェックしていない。

ま、Journey界隈と私の距離感はそんな感じで、Perryについては「引きこもりになったレジェンド」というイメージしか持っていなかったのだが、TwitterのTL上にひょっこりと現れたのがまさかの新曲“No Erasin'”。



随分と声質が変わってしまっているがそれはまあ仕方ないとして、音楽への情熱を取り戻した喜びを足をクネクネさせて表現するPerryの姿と、自身の復活を暗示させる歌詞や力強い歌唱が素晴らしかったため、思わずアルバムを購入。

アルバム中、私が気に入った曲は“No Erasin'”“We're Still Here”“Sun Shines Gray”(何と共作者にJohn 5の名前が)といったロック調の曲だが、それらも含めてクラシカルというか、同時代性というものがほとんど感じられない作品である。ボーナス・トラックとはいえまさか2018年にレゲエのリズムをフィーチュアした新曲を聴くことになるとは夢にも思わなかった。国内盤ではライナー・ノーツに代わってプレス・リリースの翻訳がブックレットに添えられており「長い間、ろくに音楽を聴くこともできなかった」というPerryのコメントが載っているが、これ、誇張なしにマジで音楽を聴いていなかったんじゃないか。

いずれにせよ、歌詞の内容が非常にパーソナルなものなので、作品の音楽性がこのようなものになるのも必然だったのかも知れない。そもそも彼にエレクトロニカやヒップ・ホップに走られてもこちらとしては困惑するしかないワケで。Journeyとは異なる音楽性やハスキーになった声を受け入れられるかどうかがポイントになるかも知れないが、力作であることは間違いない。


Steve Perry“Sun Shines Gray”

GoGo Penguin@梅田Club Quattro(2018.10.05)

2月のブルーノート・ツアーを観に行くことができず歯噛みするしかなかったGoGo Penguin、10月に今度はクラブクアトロをツアーするということで行ってきました。

セットリストはこちら。

  1. Prayer
  2. Raven
  3. One Percent
  4. Bardo
  5. A Hundred Moons
  6. Window
  7. Ocean In A Drop
  8. Strid
  9. Murmuration
  10. Smarra
  11. Reactor
  12. Transient State
    Encore
  13. Fading : Feigning
  14. Hopopono

現時点での最新作「A Hundrum Star」からの曲がメインの全14曲90分。セットリスト、2回目のアンコールがなかったこと以外は渋谷と同一の模様。

“One Percent”(2014年リリースの2nd「V2.0」収録)が聴けたらいいなあ…と思っていたら3曲目でいきなり炸裂。豊富な練習量に裏打ちされた、彼らが標榜する人力エレクトロニカなるものの凄みがあの曲のエンディングに凝縮されているワケだが、実際に目の当たりにすると過去に映像で見たことがあっても「おおう」て声が出てしまうな。これと“Transient State”を演奏してくれたので個人的には満足。ドラムが「手数出してビシバシ叩いてナンボ」系の人なので、必然的にそういう系統の曲が印象に残ったが、ラストに演奏された“Hopopono”のような柔らかいイメージの曲も悪くなかった。

客の入りは8割ぐらいだっただろうか。徳島のレコード屋(今はもう閉店してしまったが)にCDが置いてあったぐらいなので、さぞや人気があってクアトロ程度のキャパならすぐ埋まってしまうにだろうと思い込んでいたが、意外と空いていた。私が会場に着いたのは開演20分前ぐらいだったと思うが、余裕で最後方のPA卓前のポジションを確保できた(私がいた列にはドリンクを置ける小さなテーブルもいくつか置かれていた)。客も若い人が多いと思っていたのだが年齢層は幅広く、こちらもやや予想外。もう孫がいてもおかしくなさそうな感じの人が曲に合わせてすごく楽しそうに体を揺らしているのが印象的だった。

ジャズとは何ぞやと問われたら実際のところよく分からないのだが、個人的には彼らからいかにもなジャズっぽい空気を感じることはあまりなくて、変拍子バリバリだしドラムも直線的というかノリそのものは結構ロック寄りなので、例えばプログレやオルタナ~ポスト・ロック系のロック好きな人が行っても何の問題もなく楽しめるのではないかという気がしている。次がいつになるのか知らんけど、安いチケット代で行けるうちに一度は観ておいて損はないのではないかと。