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Masayoshi Fujita「Book Of Life」(2018)

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ベルリンを拠点にして活動している日本人ビブラフォン奏者、Masayoshi Fujita(藤田正嘉)のソロ3rd。

場の空気をふんわりと包み込むような深遠さを持つサウンドは不変。今回もヴァイオリン、チェロ、フルート、コーラスといったゲスト(コーラスにはレーベル・メイトであるハチスノイトの名もクレジットされている)を従え、ニュー・エイジ/アンビエント系のリラクシングな音楽を奏でている。

前作「Apologue」(2015)から基本的な音楽性は変わっていないと思う(ライヴの際、演奏前に読み上げられる各曲のテーマが記載されているのも前作と同じ)。抽象的な色合いを帯びた曲から、クラシカルなチェンバー・ミュージック寄りの曲まで、よく聴くと曲ごとに様々な表情を持っていることがわかる。

チェンバー色が濃い“It's Magical”や、ビブラフォンの演奏にまとわりつくように鳴る、何かをこするようなノイズや生活音が印象的な“Book Of Life”、遠くの方で響き渡るコーラスが荘重なムードを生み出している“Misty Avalanche”あたりが印象に残った。ただぼんやりと聞き流すのも良し、じっくりと向き合うように耳を傾けるのも良し。何というか、気品のある作品だと思う。


Masayoshi Fujita“Book Of Life”

長谷川白紙「草木萌動」(2018)

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現役音大生の長谷川白紙が20歳を迎える直前にリリースしたEP。タイトルは「そうもくほうどう」と読む。過去にデジタル・リリースはあるがCDのリリースは初なのだそう。

2016年頃から注目を浴びていたそうだが私は彼の存在を全く認識しておらず、今沢カゲロウが自身のツイッターアカウントで昨年末に採り上げていたのを見たのがファースト・コンタクト。で、今沢は他のミュージシャンに言及することが滅多にないため興味を持ち、CDを購入してみることにした。

はじめはその躁病的なラディカルさだけがひたすら突き刺さってくる感じであまりピンとこなかったのだが、数回聴いて辿り着いた結論は「すっごいプログレやん、これ」。「ジャズ、ブレイクコア、現代音楽を取り込んだ(帯の煽り文句より)」様々な要素を持った音楽だが、その方法論自体がもうプログレそのもの。つか、コアの部分にジャズorクラシックがあると一気にプログレっぽくなりますな。“它会消失”なんてジャズ・ロック感が溢れておる。

ただ、恐らくプログレというジャンルそのものは通過していない(1曲カヴァーが収録されているがオリジナルはYMO)と思われ、結果、飛び出してくる音そのものは古色蒼然としたソッチ方面とは一線を画した、生音と打ち込みが統率の取れたカオス感の中で同居する、現代的な情報量過多のアヴァンギャルドなポップ・ミュージック。こういう「プログレを通過してないけど出てくる音はプログレッシャー向け」な音楽を作っている人はちょっと追いかけてみたくなるな。ここからどういう風に成長していくのか、マニアックな部分を上手く処理できれば更なる浮上が期待できる素材だと思う。


長谷川白紙“草木”

2018年振り返り。

例年はここでベスト5を発表するところだが今年はナシ。全体的な平均点は決して低くないけど、なんかこう、エキサイトできるような作品には遭遇できなかった印象。Gogo Penguin「A Humdrum Star」は期待通りだったしTremonti「A Dying Machine」あたりも良かったけど、それ以外でわざわざベスト5として挙げたくなるような作品があったかと問われれば、うーん。

このトシでこういう状況に陥ると「自分の感性の摩耗」を疑いたくなるのがツラいところだが、一眼レフを購入した昨年1年間はすっかり撮り鉄おじさんと化していたので(それまではコンデジでお遊び程度)、あまり音楽を聴くための時間やら体力やらがなかったような気もする。

とはいえ参加したライヴは6本、私としてはかなり多くのライヴを観た年だった。2017年に引き続きMarillionを褒め称えたいところだが今回は何といっても島津亜矢。歌が上手いというのは前から知っていたが、ナマで聴いて圧倒され、それからYouTubeで動画を漁ってさらに圧倒されるという展開。公式の動画ではないのでリンクははらないが、中島みゆきのカヴァー“命の別名”、細川たかしのカヴァー“望郷じょんから”は是非聴いてもらいたい。細川たかし本人以外で“望郷じょんから”をあんなに上手に歌える人がいるとは思わなかった。

NHKで火曜日にやっているうたコン(DA PUMP“U.S.A.”と三味線奏者を共演させる狂った歌番組)に時々出ているが、いつも後ろの方でニコニコしながら座っていてトークにはほぼ絡まず、中途半端な歌手が歌ったら文句が出そうな難しい曲をサラッと歌っている。たまには自分の曲を歌わせてやってよ、と思いながら観ている。そういえば紅白も中島みゆきのカヴァーでしたな。今回の紅白は比較的良いパフォーマンスを見せる歌手が多かったように思えるが、歌い出しの一発目で鳥肌が立ったのは彼女だけだった。



ライヴレポでも書いたけど、どっかのロックフェスに出てくれんもんかなあ。歌怪獣タオル、飛ぶように売れると思うぞ。とにかくナマで聴いた時のインパクトが尋常でないので、少しでも多くの人にあの衝撃を味わってもらいたいものである。

インパクトといえば、2018年最もインパクトのあった曲でこのエントリは締め。2019年も良い音楽に出会えますように。

Jyocho「美しい終末サイクル」(2018)

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2016年に結成されたG+Vo,Key+Fl+B+Drという編成の京都発5人組、Jyocho(じょうちょ)による1stフル。

高音域になるとファルセットを多用する女性Voやゆったりとしたフレーズのフルートから連想されるのは、ふわっとした感じの女性SSW、或いはフォーク寄りのプログレといったところだが、そんなゆるふわな空気を切り裂くのがタッピングを多用して超絶フレーズをマシンガンのようにはじき出すギターと、それに呼応するように入り乱れる変拍子。ポスト・ロックやマス・ロックといった技術至上主義的音楽と、感情的な音楽であるエモのミックスとでもいえばいいのか。案外、ガツガツしている。

タッピング奏法といえば70年代にSteve Hackettが発明し、Edward Van Halenが広く世に知らしめたものだが、20世紀においてはハード・ロックやヘヴィ・メタル系ギタリストの専売特許だったのが、21世紀に入ってからはより幅広く使用されるようになった感。アラフィフギタリストの友人がこれまたタッピングを華麗に使いこなすYvette Young(11月に来日していたらしいですな。見逃してしまって悲しい)のプレイ動画を見て「おじさんが30年以上かけてできないことを軽くこなしてしまっていやになる」と言っていたんだが、YouTubeを見ると若い子(というか「子供」と呼んで差し支えない世代)が楽器を凄まじい勢いで弾きこなしている動画が沢山出てくるのな。文字通り、大人顔負け。今は動画でお手本も好きなだけ見られるしガキだから時間も集中力も体力もあるし、そら上手くなるヤツは上手くなるわな、という。まあ大したモン。古今東西問わず様々なジャンルの音楽に触れる機会も増えるから、このJyochoみたいな音楽が生まれる土壌も育まれるんでしょうな。

難曲を易々と演奏する技術力に舌を巻き、その技術をもって表現される音が何とも軽やかなものであることにまた驚く、若さ溢れる1枚。ポップさの中に内省的な要素や実験性も強くにじませた音楽性は、その1つ1つは新しいものではないけど、それらが合わさることによって新鮮で面白いものに仕上がっていると思った。


Jyocho“つづくいのち”

Mercedes Peón「Deixaas」(2018)

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2000年代前半の頃だっただろうか、ガリシア・トラッドという言葉を目にする機会が多かった気がする。スパニッシュ・ケルトという呼称が一般的なようだが、スペインのガリシア地方に伝わる、ガイタと呼ばれるバグパイプやバンデイレータと呼ばれるタンバリン等を用いた音楽を指す。このジャンルに属するミュージシャンのうち、私はLuar Na Lubreと今回紹介するMercedes Peón(Peon)の作品をそれぞれ数枚ずつ所持している。

Luar Na Lubreが今でもコンスタントのアルバムを出しているのは知っていた(作品は追いかけてないけど…)が、Mercedes Peónは多大なるインパクトを受けた2nd「Ajrú」(2003)に続いてリリースされた「Sihá」(2007)がどうもピンと来なくて(このレビューを書くにあたって10年ぶりぐらいに聴き返してみたら結構良かったんですけどね)、その後リリース情報も入ってこずそのまま私の意識からフェードアウトしていた。

彼女の名前がふと気になったのは先月紹介したEmel「Ensen」(2017)を聴いていた時。別に似ていないけど、伝承音楽をベースに先鋭的な音作りを志向しているという点で2人は共通していて、ふとPeonのことが気になって調べたら2010年に4th、そして今年5thと、寡作ながらもリリースを続けていることを知り、その5枚目となる「Deixaas」を購入した次第。

2nd、3rdで賑やかに鳴り響いていたガイタやアコーディオン等々の各種アコースティック楽器に代わり、打ち込みのビートやヘヴィなギター、各種ノイズで構成されたインダストリアルかつストイックなサウンドが作品を支配しており、こうなってしまうとどの辺が「スパニッシュ・ケルト」なのかは私には最早判別不能、硬軟の振れ幅が極端なアクの強い女性ヴォーカルによる先鋭的な音楽、という表現になってしまう。

バックの演奏は一変とまでは言わないにしても結構様変わりしている印象だが、13歳の時に聴いた地元の女性達による歌いまわしの模倣がベースになっているという独特の節回しが形作る彼女の強固な個性は不変。タイトル・トラックのカッコ良さと異様さはかなりのもの。特濃の1枚。


Mercedes Peon“Deixaas”